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在る偏屈者による半年遅れのMBA留学日記、そして帰国後に思うこと
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 サファリ旅行も3日目。
今日からはセレンゲティ国立公園を離れ、一昨日に通過したンゴロンゴロ保全地域へと場所を移す。
3日目ともなると、サバンナの広大な景観にも、未舗装の悪路を行く四駆車の揺れにも慣れてくる。それどころか、車の窓のすぐ外を野生の動物が歩いているという状況すら、当たり前に感じられてくる。贅沢な話である。
そんなわけで、「中だるみ」の防止も兼ねて、ンゴロンゴロへの道中は、動物だけでなく人間にもスポットを当てることにした。

まず一つ目は、オルドヴァイ(Olduvai)渓谷の見学。セレンゲティの大草原からンゴロンゴロの山岳地域へと地形が移行していく途中に現れる40kmほどの渓谷で、ミニ・グランドキャニオンといった景観であるが、ここが有名なのはもちろんその渓谷美ゆえではなく、そこから出土した化石のためである。その化石とは、1959年に発見された猿人アウストラロピテクス・ボルセイと、1964年に発見された原人ホモ・ハビリスの骨。特に250万年前から200万年前まで存在していたホモ・ハビリスは、現在分かっている限り最も初期のヒト属であり、我々(ホモ・サピエンス)の祖先である。ネアンデルタール人や北京原人、ジャワ原人など、歴史の授業で昔聞いたことがあるような初期ヒト属は皆ここから進化していったと考えられており、今世界中にいる人類の祖先を辿っていくと、すべてはこの渓谷に行き着くことになる。時間軸・空間軸ともにスケールの大きすぎる話で、なかなかピンとこないが、なんとなく凄い場所にいるような気にはなる。
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もう一つは、マサイ族の集落の訪問。マサイ族とはタンザニア北部からケニア南部に至るサバンナで伝統的な放牧生活を続ける先住民族のことで、今回訪れた地域では、アルーシャ北郊からンゴロンゴロ周辺にかけて、所々にその小集落をみることができる。国立公園に指定されているセレンゲティや、動物の保全活動が注意深く行われているンゴロンゴロのクレーター内部は政府によって放牧が禁止されているが、それ以外の地域では彼らは今も自由に行き来しながら牛を追っている。タンザニアでは都市部を除くほとんどの国土が国有地であり、マサイ族の放牧地域も国が所有していて、また彼ら自身に縄張りの意識があまりないため、本当に自由に動けるらしい。ケニアとの国境ですら、茂みの中を自由に歩く技術をもつ彼らにとっては何の制約にもなっていないようだ。そんなマサイの人々も、日用の生活物資や、彼らの最も重要な財産であり「貨幣」でもある牛を獲得するために、ある程度の現金収入が必要であるらしく、集落によっては車一台あたり50ドルでサファリツアーの旅行者を迎え入れて、生活の一端を公開している。我々もセレマニに頼んで、そうした集落の一つに案内してもらった。
案内役として出迎えてくれたのは、20代くらいのマサイの青年。他のマサイの人々と変わらない格好をしているが、きちんと英語で説明してくれる。我々のような観光客を迎えた場合の流れが出来上がっているらしく、段取り良く「出し物」が続いていく。まずはマサイの人々による歓迎の歌と踊り。女性たちが主に唱和する歌は素朴な節で、もちろん何を言っているのかまったくわからないが、草原の空に消えていくその声色には独特の迫力がある。
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一方で男性たちは、隊列を組んで踊りを披露してくれていたが、やがてそれも踊りの一部なのか、一人ずつ跳躍を始めた。皆跳躍力が並大抵ではなく、垂直跳びで1mくらい跳びあがっている男性も少なくない。飛んでいる、という漢字の方が適当かもしれない。
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マサイの人々は基本的に家族単位で小集落を営んでいる。一夫多妻制で、生活を支える財産である牛を多く所有する男性は、複数の妻を娶ることができる。妻とその子供で一軒の家(といっても写真のとおり掘っ立て小屋であるが)を成し、夫は独居して妻の家をまわる。必然的に、大家族が形成される。一家族に過ぎないにも関わらず、複数の小屋が集まった集落になるのはそうした理由からである。独特な生活習慣のため、ほとんどの場合婚姻はマサイ族の間で行われるらしいが、花嫁探しも大変である。何せ、出会いの機会がない。身の回りにいる女性は全て身内なのだ。案内してくれた青年は独身だというので、どうやって花嫁を探すつもりか聞いてみたら、このあたりは比較的集落も多いから、そんなに難しいことではないと思う、と笑顔で応えてくれた。しかし彼はそういうが、私の目には見渡す限り草原と潅木しかなく、360度集落など見当たらない。すぐ近くの集落はどこにあるのか尋ねてみると、地平線近くの山影などを指差して、あの山の麓にも、その山の麓にも、あの茂みの向こうにもある、みんな歩いて行ける距離だよ、と教えてくれた。
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民族融和、教育水準向上のために、政府は彼らに就学を勧めているらしいが、遠く離れた学校に通うには費用もかかり、また草原の暮らしを続ける限りはあまり就学のメリットもないため、このあたりでは10人に2人くらいの割合で家族の中から子供を「選抜」して、中学校程度までは行かせているらしい。案内をしてくれた青年も、そうした経緯から中学校まで卒業している。一応、その先も学業を続けるという選択肢もあったそうだが、草原の暮らしに戻ったようだ。セレマニによると、マサイ族の中にも大学まで進学し、政府機関などで就業する人もいるらしいが、そうした人々でもいずれは草原に帰って、昔ながらの暮らしに戻るのだという。また、10人のうち2人に選ばれなかった残りの子供たちには、集落の中で「家族学校」を作って初等教育を行っている。「教室」も粗末な掘っ立て小屋だが、子供たちはちゃんと制服らしきものまで着ていた。
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帰り際、ささやかな「経済協力」のためにと、彼らが製作して訪問者に売るビーズ細工の土産物をいくつか、彼らの言い値で買い求めた。
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しかし、買い求めながら、何となく考えさせられた。確かに彼らは、スローンの経済学の授業で学んだ分類で言うと、一日の生活費が1ドルを下回る最貧困層であろう。掘っ立て小屋の家屋には当然電気や上下水道などは供給されておらず、寝所も土を土俵のように盛って藁や敷物を敷いただけである。食料もほとんど牛の乳と肉ばかり。2000年代に入って年率5-8%という急速な経済成長続けるタンザニアにあっても、そうした富の蓄積から取り残されているといっても間違いではないだろう。しかし、彼らは変わる気がないというか、そうした伝統的な生活様式に誇りを持っていて、積極的にそれを続けているのである。資本主義社会に住み、経済成長を絶対的正義であるかのように教わってきた我々とは、価値観が根本的に違うらしい。こういう人たちを前にすると、世界の格差拡大だの貧困だのといった議論が、先進国的価値観の押し付けによる一方的で勝手な憐憫ではないかとさえ思えてしまう。

ちょっとしたカルチャーショックを受けた、異文化交流であった。

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 タンザニア入りしてから二日目の今日は、セレンゲティ国立公園内を一日中車で回って動物見学をする。ゲームドライブといわれ、どこで何に出会えるかは、ドライバーの知識・技術と運次第である。我々の場合、ドライバーであるセレマニの豊富な経験と視力(本当に遠くの小さな動物でもすぐ見つける)、多少の運もあって、ほぼ全ての主だった動物を見ることができた。「見る」といっても、動物園で見るのとは異なり、野生の生活の様子を見るわけで、セレマニの説明とあわせて、なるほどと思わされることが多い。
というわけで、この日の記録は単に写真を並べるだけでも良かったのだが、折角なので忘れる前にこうした「なるほど」を記しておきたいと思う。

強者の自然抑制
ライオンはよく言われるように百獣の王。大人のゾウ以外どんな動物でも襲って食べ(大人のゾウは大きすぎて手に負えないらしい)、どんな動物もライオンを襲わない。要するに無敵である。そうすると、ライオンばかり増えて困りそうな気もする。しかし、無敵の強さを誇るが故の「問題」があり、結果としてあまり増えないように出来ている。その仕組みは、どことなく人間社会に似ている。
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  • 少子化… まず、繁殖率が低い。ライオンはカップルになると、性交渉を始めるのだが、受精に成功するのに15~20分間隔で休みなく性交渉を繰り返して2~3週間かかるらしい。一日12時間「頑張る」として、700回くらい「頑張っ」てやっと一回成功する計算である。成功すると3週間で6匹ほどの子供が生まれるのだが、この子供が自立するまでのおよそ4年間は、母親は次の繁殖活動をしない。ライオンの寿命は15年ほどなので、一生に2回ほどしか繁殖の機会がないことになる。しかも生まれた6匹の子供のうち、成人するのは2~3匹。こうして一匹のメスから多くて4~6匹しか繁殖できないのだという。
  • 嫉妬… ライオンのオスは他の動物に比べてメスの独占意識が強く、メスを奪うために他のオスと闘うことは勿論、既に繁殖活動を終えて妊娠あるいは出産したメスを奪うと、その子供を殺してしまうらしい。種の保存にリスクを抱える他の弱い動物では、こうした「余計な」感情は働かないようである。
  • 縄張り意識… ライオンは縄張りで生きているので、新しく成人したライオンは、親元から離れて自分で新しい縄張りを見つけなければならない。これができないと、親を含めた他のライオンから妨害されて思うように狩りができず、生きていけないらしい。当然、生活可能領域に限界があると、それが自然の繁殖限界となる。
  • 病気… ライオンは他の動物よりも病気になりやすいらしい。余り数が増えるとライオン同士で感染し、数が減るように出来ているのだという。

意外な強者
動物園で見る姿や、それら動物を題材にしたキャラクターなどから得られるイメージに比べ、他の動物(特に肉食獣)との戦いにおいて意外な強さを発揮する動物もいる。キリンとカバが代表格に思えた。
まずキリンは、脚力が非常に強く、ライオンなどの肉食獣が襲ってきても、後足で蹴り飛ばすことでかなりの攻撃力があり、一撃で返り討ちにすることもあるらしい。実際に、彼らが走っている姿を見かけると、あまり早くはないのだが、急斜面などもふわふわと飛ぶように軽く登っていく。
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またカバはまず図体が大きいのと、口が異常に大きいために、体当たりや噛み付きで相当の破壊力があるらしい。水辺に暮らす彼らが最もよく出会う肉食獣はワニだが、ワニはリスクが大きいのでほとんどカバを襲わないという。稀にワニが子供のカバを襲う場合もあるらしいのだが、そうするとその家族のカバが後々までそのワニのことを覚えていて、集団で襲い続けるらしい。従って、一大決心をしてカバの子供を襲ったワニは、その後すぐ逃走して、二度とその水辺には戻って来られないのだという。そんなわけで、我々が見たワニは、カバの群れが昼寝しているすぐそばで、彼らを襲うことなく一緒に昼寝をしていた。
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意外な弱者
反対に、イメージよりも随分弱い肉食獣もいる。その代表例はチーターだろう。
草原に住むライオン、ヒョウ、ハイエナ、マングース、ヘビ、ジャッカルなどの肉食獣のうち、チーターは最も弱いらしく、例えば彼らが獲物を捕らえて食べているときにハイエナが寄ってくると、一目散に逃げてしまうらしい。また速く走る能力との引換えでもあるのだが、頭が非常に小さいので、バッファローなどの大きな草食動物は噛み殺すことができず、比較的小型の動物しか狙えないのだという。そして速く走るという最大の取り得も、確かに最高120km/hほどで走るので速いのだが、300mほど走るとバテてしまうらしい。かなりイマイチな動物である。
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共存共栄
ヌーとシマウマはいつも行動をともにしている。これらの動物は、タンザニア北部のセレンゲティなどの草原と、ケニア南部のマサイ・マラの間を、季節に応じて大移動するのだが、その移動も一緒に行うことが多い。これは、ヌーが外敵を察知する能力に長けているのに対して、シマウマがはぐれた仲間を見つける能力に優れているため、一緒にいることでお互いのメリットがあるかららしい。
我々が訪れた時期はこれらの群れが全てタンザニア側にいる時期なので、ゲームドライブの間、見渡す限りの大地を覆うほどの大群に出会うことがたびたびあった。
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姥捨山
どの動物の世界もそれぞれに厳しいのだが、バッファローの世界はお年寄りに厳しい。群れで暮らすバッファローだが、歳をとり、子供の世代が群れのリーダーシップをとるようになると、親の世代は群れから捨てられる。せめてもの情けで、捨てるときには2~3頭セットで捨てられるらしいが、捨てられたバッファローは草原で堂々と生きていくことが難しく、茂みの中で暮らす。そしてそのうち肉食獣に襲われるか、老化するかして死んでいくのだという。宿泊したロッジのそばの茂みの中で暮らす、群れから捨てられたバッファロー「二人組」がいたが、老体のためか動きも緩慢で、とても寂しげだった。
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というわけで、なんだか動物図鑑みたいになってしまったが、動物の世界は単純なようにみえて複雑な社会関係や力関係があり、それらが実に上手くバランスすることで持続可能な再生産が行われているのだということが、実感できた。そしてそうしたバランスを壊す人間という動物の罪深さも、改めて思い知らされたのだった。


タンザニア第二の都市アルーシャから、旅は始まる。人口50万人(とドライバーのセレマニは言っていたが、定かではない)、東アフリカの国連活動の拠点ともなっている都市であり、朝から活気に溢れている。
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街を車で走っていてまず気づくのは、車の多さもさることながら、歩く人の多さ。学生、通勤風の人、荷役夫、軍人、様々な人が沿道を歩いている。たまに乗合バス(日本のトラックやワゴン車を改造したもの)も通るのだが、はちきれそうなくらい超満員で、恐らく供給が需要に全く追いついておらず、大多数の人は歩かざるを得ないのだろう。郊外に出てもその傾向は続き、何もない草原を貫く車道のそばを、何故か人が歩いている。前にも後ろにも、見渡す限り建物などないのに、である。そういえば、昨夜空港からアルーシャまで車で走ったときも、人が夜道の路肩を人が歩いている姿をしばしば見かけた。移動の概念、そして歩くということの概念が、我々とは随分と違うらしい。
また街の住民はほぼ100%黒人なのだが、顔や体型の違う人々、つまり様々な部族の人々が集まり、分隔てなく付き合っているように見えた。ケニア、ルワンダ、コンゴなどの周辺諸国で、部族間差別・対立が大きな政治的・社会的問題であるのに対し、ここタンザニアでは120を越える部族が融和し、平和が保たれている。その理由としては、多数派を形成しうる特定有力部族が存在しなかったという事実も大きいと思われるが、ドライバーのセレマニは、タンザニア初代大統領ニエレレの民族融和政策のお蔭だ、と説明してくれた。

アルーシャを出て3時間ほどで、ンゴロンゴロ保全地域の入り口に至る。ここで小休止。せっかくなので、これからサバンナを疾走する我が四駆車と記念撮影。ちなみにサファリの車は、ほぼ100%トヨタのランドクルーザー(を改造したもの)。セレマニ曰く、他の車ではサスペンションやエンジン系がもたないらしい。
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通行料を払い、ゲートをくぐると、いきなり出ました動物…、というわけにはいかず、車はしばらく山道を走る。ンゴロンゴロは巨大なカルデラ地形で、同地域を通過するだけの車は、外輪山の尾根道を走って、北側に広がるセレンゲティ草原へと抜けてゆく。我々もゲートをくぐってから1時間ほどは、そうした山道を走った。そして草原へと雪崩れ込むように下ってゆくと...、出ました、右手にキリン。
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やはり最初の一頭の感動は大きく、何枚も写真を撮る。が、その後よく見てみると、周りにキリンがうじゃうじゃといる。ああも巨大な動物がたくさんいると、自分が小さくなったような錯覚にすら陥る。その後も、ガゼル、ライオン、チーター、ヌー、シマウマ、ジャッカル、ヘビ、ゾウ、ヒヒ、インパラと、多種多様な動物が次々と姿を現す。
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いずれも、恐らくテレビや動物園で見たことのある動物かそれに類するものばかりで、その姿自体に度肝を抜かれるようなものではないのだが、テレビや動物園の檻といった「フレーム」なしに、360度広がる大自然の中で実際に動く姿を見るのは、やはり迫力や印象の鮮度、感動が違う。なにしろ、このセレンゲティ国立公園では、四国全体より大きいおよそ1.5万km2という大草原(セレンゲティとはマサイの言葉で「果てしなく広がる草原」の意味)に、様々な動物が300万頭以上生息しているらしく、スケールが違う。地平線が見渡せる草原、茂み、アカシアの林など、いかにも映画で見るような「アフリカらしい」景観のそれぞれに、そこに応じた動物を見ることができ、なかなか飽きない。あっという間に宿泊予定のホテルに到着。国立公園の一隅の丘の上にあるSerengeti Sopa Lodgeというホテルで、サバンナを一望しながらプールにも入れるという贅沢なつくり。部屋も広々として、長い車の移動に疲れた娘たちも大喜びである。
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明日は一日、セレンゲティ国立公園内を車で散策する。




春休みを利用して、東アフリカのタンザニア連合共和国に旅行することにした。南米とアフリカは、米国留学中に一度は訪れておきたいと思っていた。1月に南米(ペルー、チリだけだが)を旅したので、残るはアフリカ、というわけで、まだ米国の寒い春休みを利用して、家族旅行を企画した。

アフリカといっても勿論広く、特に東アフリカは米国から遠くて、実は時間距離にすると日本から訪れるのと大して変わらない。とはいえ、日本に戻ってしまうとなかなかまとまった時間がとりにくいだろうし、例えばエジプトで遺跡を見るよりも東アフリカで野生の動物を見たほうが子供も興味をもつだろう、ということで、東アフリカ、中でもスローンの友人の勧める声が多かったタンザニアに行くことにした。現地8泊+機中2泊で合計10泊11日の旅程。前半をタンザニア北部キリマンジャロ山近くの動物保護地区の散策(いわゆるサファリ)に宛て、後半はインド洋に浮かぶザンジバル島に移動してゆっくり過ごす予定である。ボストンからアムステルダム経由で片道合計15時間の飛行の旅は、幼い子供にはかわいそうであるが、それに見合う発見や出会いがあることを期待して、まだ寒いボストンを発った。

予想通りの長い空の旅のあと、現地時間の19日午後8時過ぎにタンザニア北部のキリマンジャロ空港に到着。空港でビザを取得し、いい加減な(?)入国審査を経たところで、迎えのドライバーと合流。サファリ旅行を手配した旅行会社のドライバーで、名前をセレマニという。車はいかにもサファリに行きそうなランドクルーザー。小さな空港を離れ、真っ暗な夜道をホテルに向かう道中は、これから何か知らない世界に遭遇しそうな予感をかきたてるのに十分な時間だった。




 ときどき参加させてもらっているボストン日本人研究者交流会の月次講演、今月は早稲田大学の山本武彦教授が演題に立つということで、聞きに行ってきた。演題は、「東アジアにおける科学技術のもつ安全保障上の意味」。恐らく多くのビジネススクール学生がそうであるように、私も普段はビジネスに関係した話題、言い換えれば「民間レベル」の問題にばかり注目したり考えたりしているので、軍事、外交、規制といった国家レベルの論点には疎くなっている。一方で、こうした上層構造レベルの論点は、民間のビジネス論点を考える上では「外部要件」として半ば諦めの境地で見られるものの、その重要性は今更強調するまでもなく、少なくとも問題の所在や議論の方向性を理解しておくことは必須であろう。というわけで、勉強させてもらいに行った。
以下、私が理解した範囲での簡単な要約を記しておく。
  • 安全保障戦略(Geo-strategy)は、地政学(Geo-politics)と地経学(Geo-economics)からなり、これら2つの要素を媒介する変数として、科学技術の発展・育成・管理戦略がある。教授はこれを地技学(Geo-science and technology)と呼ぶ
  •  両世界大戦期から冷戦期にかけて、世界の科学技術の進歩は軍需産業がリードしてきたが、現在(80年代以降)はむしろ民需産業がリードするかたちになり、民間経済のグローバル化と相まって、こうした技術の囲い込み、コントロールが大きな政策争点となっている
    • かつては軍需から民需への技術転用(Spin-off)が民需経済の技術革新を促してきた。パソコン、インターネットなどがその典型例。しかし今では、軍需・民需の技術上の垣根がほぼなくなり、民需用として開発された技術が軍需に転用される(Spin-on)方が多くなっている。例えば飛行機の機影をレーダーで捉えられなくするステルス技術は、もともとはTDKが電子レンジ用に開発した技術
    • 民需用として開発され、世界中に伝播した技術が、伝わった先で軍需転用され、自国の安全保障を脅かす、という可能性が高まり、そうした実例も増えている
    • 9.11のテロも、民需技術(航空機、超高層ビル)を最大限に利用したテロという見方もでき、その意味では科学技術の大いなる逆説、ともいえる
    • これらをコントロールするために米国では特に80年代以降様々な政策がとられてきた。安全保障上重要な技術を有する米国企業への外国人・法人の投資を規制するForeign Investment & National Security Actや、米国で活動する技術者の米国からの海外渡航を規制するDeemed Export Controlはその典型例(ちなみに後で知ったことだが、MITの研究者もしっかりDeemed Exportの規制対象となっている
  • 日本でもこうした争点について近年議論が行われるようになり、いくつかの規制も敷かれているが、北朝鮮をはじめとする東アジアの安全保障上の脅威を踏まえ、より慎重に対応する必要がある
    • Jパワー社の買収で話題となった2007年の外為法26条改正(対内直接投資の自由化を原則としつつ、国際的な投資ルールの枠内で、安全保障等の理由に基づき、一部業種に限定して対内直接投資に対する規制(審査付事前届出制度)を導入)は、米国の規制に倣った技術囲い込みの事例
    • しかしながら、現在もまだ日本の安全保障に関わる国産技術が東アジア諸国に流れている。例えば北朝鮮には、主に台湾経由で技術が伝えられている。テポドンの主要技術も、多くは日本の技術だという説もある

山本教授のお話を伺ったのは初めてだったが、ある意味で典型的な日本の研究者という感じで、お話の背後に圧倒的な教養と深い知識を感じさせられる一方で、講演は論旨・結論がもう一つはっきりせず、ちょっともったいない気がした。上記のまとめも、教授がこのようにお話しになったわけではなく、前後する議論を私なりに整理したものなので、もしかしたら教授が本当に強調したかったポイントは他にあるのかもしれない。

ともかく、こうした論点は重要だが普段気に留めないポイントであり、いろいろと考えさせられた。ビジネスをやる上では、科学技術の発展は一般的に「良いこと」であり、時にはCDがレコードを駆逐したような既存技術の陳腐化という文脈で「脅威」になることはあっても、全体としては大いに奨励されるべきものである。そしてその発展のために国際的な協力が必要であればやるべきだろうし、研究の果実として得られた新技術やそれを活用した新製品は、できるだけ多くの市場に販売されるべきだろう。しかしそれがテロなどの脅威を増幅し、思ってもみないシッペ返しとなる可能性もある…。人口増幅と資源消費を加速させる科学技術の進歩に対してブレーキをかける、科学技術そのものの内在的な制御の仕組みなのかもしれない。


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Shintaro
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職業:
経営コンサルタント
趣味:
旅行、ジャズ鑑賞
自己紹介:
世の中を素直に見ることが苦手な関西人。
MITスローン校でのMBA、プライベート・エクイティでのインターン、アパレル会社SloanGearの経営、そして米国での生活から、何を感じ、何を学ぶのかー。

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