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「 Speaker Series 」
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 4月から、CEO Perspective(CEOの考え方)という授業をとっている。
毎回米国の会社のCEO(もしくはそれに準ずる立場の人)がゲストとして招かれ、彼・彼女が実際に乗り切った 困難な一局面を例に取りながら、CEOがどういう物の考え方で会社を経営すべきかを語る、という授業である。ファイナンスやオペレーションの授業のように、具体的な個別スキルを学べるわけではもちろんないが、その立場に立ってみないと分からない困難や視点、考え方を追体験できることができるので、非常に面白い。

第8回目の今日は、Ron Fisherという人物が招かれた。
ソフトバンクの米国法人Softbank Holdings及びSoftbank Capitalの代表を務める人物で、ソフトバンク本体の取締役も兼ねている。ソフトバンクの外国人取締役というと、一時期話題になったアリババ・ドットコムの馬社長も顔を連ねているが、Fisher氏がソフトバンクに参画したのは10年以上前の1995年、取締役になったのは1997年で、ソフトバンクが東証一部に上場するより前の話である。どんな人物なのか、非常に興味をもっていたが、教室に現れたのは小柄な白髪紳士だった。なぜソフトバンクに参画したのか、どのようにして孫氏とであったのか、そのあたりの経緯は授業の本旨ではないこともあって多く語られなかったが、彼の投資哲学を聞いていると、なぜ日本の会社で取締役を10年以上務め、なぜ孫氏が彼をそばに置きたかったかが、何となくわかるような気がした。

まず、彼の投資スタイルのベースには、所謂アングロ・サクソン型の合理主義が貫かれている。例えば、
  • 新しい投資機会は、既存の投資案件より往々にして魅力的に見える。新しい案件に投資することが自己目的化してはいけない。
  • 投資先の会社が困難に陥ったとき、存続させるべきか倒産させるか、あるいは売り払うか、その判断においては情に流されず、今仮にその会社に投資していなかったとして、今から新規にその会社に投資しようと思うか、で決めるべき。過去に注ぎ込んだカネ、努力、時間、そこから醸成された思い入れなどは、難しいがすべて捨てなければならない
  • 戦略投資と純投資は峻別しなければならない。例えばSoftbank Capitalの場合、ソフトバンク・グループの既存事業とのシナジーなどを当て込んで投資することはしない。またソフトバンク本社はSoftbank Capitalの一出資者に過ぎず、ファンドの運営にクチを出すことはできないようになっている

一方で、どこか日本的というか、定性的かつ長期的な視点も併せもっているようであった。例えば、
  • 会社が危機を取り超えられるかどうかは、CEOが本当にコミットしているか、に大きく左右される。知的財産とか技術力とか、そういったものはすぐ陳腐化するが、トップの能力、考え方、気持ちが困難を乗り切るに足るものであれば、生き残れる
  • 小手先の投資戦術を考えるのではなく、現在の社会・経済環境にとって、その会社の製品・サービスが本質的に必要とされているか、これから先も必要とされ続けるか、を考えるべき

日本を代表するベンチャー企業として国内外での事業拡大を考えるにあたって、このような明確な視点と洞察力をもった人物が同じチームにいてくれたら、確かに大きな助けになっただろう。

そこでふと、MBA課程を通じて親しくなった友人たちを思い浮かべてみると、自分にとって将来こういう存在になってくれる可能性のある顔ぶれがいることに気がついた(先方がどう思っているかは別にして)。実際に彼らとの関係が今度どうなるかは全く分からないが、留学で得た大きな財産の一つである。
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モノを売るという行為は、経済活動の最も基礎的・原始的な要素であり、これなしにビジネスはあり得ないのだが、実はビジネススクールには、スローンを含めて、セールスの授業というのが非常に少ない。全くない学校すらあるらしい。それを反映してか、ビジネススクールを卒業した学生が就く職種も、製造業でいえば経営企画、マーケティング、プロダクトマネジメントなどが多く、セールスというのはあまり聞かない。世の中の企業が、セールスはお勉強で身につくものではなく叩き上げで育つものであって、MBAさんが活躍するところではない、と思っている節も多分にあると思われる。しかし一方で、直接セールスの仕事に就かなくても、ビジネスキャリアのどこかで、モノを売って成功を掴むという場面が訪れる可能性は極めて高い。
そんな背景もあって3年前に設立されたMIT Sloan Sales Clubは、昨今の経済情勢もあって急激に拡大し、現在会員数230名、スローンではファイナンスクラブに次いで2番目に会員数の多いクラブにまで成長している。全米の有名ビジネススクールで、ここまで大規模なセールス関係クラブをもっている学校はないのではないか、とクラブ幹部は話していたが、他所との比較を抜きにしても、非常に活発に活動している良いクラブであることは間違いないだろう。

今日はそのクラブ主催のイベントであるMIT Sloan Sales Conferenceが開催された。今年はどんなキャリア系のイベントでも、テーマは経済危機絡み。このイベントもご他聞に漏れず、Sell or Sink: Navigate the Crisisと題して、成功したベンチャー経営者、投資家、交渉術の研究者などを招き、不況下での営業術についての講演・議論が行われた。全体を通じて、「不況」を「購買力が低下した状況」と定義するのではなく、「市場・事業の不確実性が増し、顧客が不確実性に伴うリスクの回避を優先する状況」と定義して、その中でどういうセールスを仕掛けるべきか、非常に実践的な議論が交わされた。少なくとも「不確実性の中でどうするか」よりも、どちらかというと「今までと何が変わったか」に議論の中心があった先日のPrivate Equity Symposium よりは、随分前向きな議論だったと思う。以下、いくつかの講演、パネルディスカッションの中から、特に興味深かった3人のスピーカー(社会心理学者のRobert Cialdini、”Difficult Conversation”の著者Douglas Stone、Kiva Systems創業者兼CEOのMick Mountz)のメッセージを振り返っておきたい。


Robert Cialdini
アリゾナ州立大学で教える社会心理学者であり、交渉術の分野ではあまりにも有名なInfluence: Science and Practice(邦題「影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか」)の著者。今回のイベントの目玉スピーカーである。この人の話を聞くためだけに来た参加者も恐らく少なくないだろう。今回の講演では、彼の提唱する6つの「影響力の武器」のうち、不確実性が増した現在の交渉環境下ではどれが特に重要か、を解説するもの。6つの「影響力の武器」は、人間の本質的な心理作用に拠るものなので、時代や文化を問わず普遍的に有効だ、というのが彼の主張であるが、同時に6つの「武器」の優先順位は時代や文化によって異なる、とも述べている。今回はその中で、不況(あるいは経済危機)という時代の中で特に重要度が高くなるものについての博士の説を示してくれた。
詳しい説明は省くが、「影響力の武器」とは、
1. Reciprocation(返報性)
2. Scarcity(希少性)
3. Authority(権威)
4. Consistency(一貫性)
5. Consensus(社会的証明)
6. Friendship/ Liking(好意)
の6つ。この中で、不確実性が高まった社会環境下では、Scarcity(希少性)、Authority(権威)、Consensus(社会的証明)の3つがより有効な「武器」となるだろう、というのが論旨。

Scarcity(希少性)が影響力の武器となる背景には、何かを得ることよりも何かを失わないことを重要視する、という人間の心理がある。不況下で、経済成長や就職など「何かを得る」ことの不確実性が高まると、人々の「これ以上失いたくない」という心理が強くなるため、ここに働きかけることで、影響力を行使できるという。例えば新機能満載の新商品を売り込もうとする場合、「これが新しい機能です」と訴えるよりも、「これが必要としていたのに無かったものです」と訴えた方が、効果があるという(ある家電商品では、宣伝コピーの言い回しをこのように変えるだけで、売上が40%も伸びたとのこと)。

Authority(権威)はより分かりやすい。素人の主張よりも玄人の主張の方が信用されやすいものである。人は権威を前にすると批判能力を低下させる(もしくは失う)。「専門家の彼が言うのだから、間違いないはずだ」となる。もっとも、Cialdini博士はこれをもって、専門性を高めよと言っているわけではない。ポイントは、どうやって権威や信用を獲得するか。そのための一つの方法として博士が推奨するのは、自分にとって不都合や情報やネガティブな事実を先に言うこと。「我々は素晴らしい計画に合意したが、まだ克服すべき困難も多い」というのと、「まだ克服すべき困難は多いが、我々は素晴らしい計画に合意した」というのとでは、言葉の順番が違うだけだが、後者の方が前向きに受け取られる。最初に都合の悪いことを言うことによって、後者のポジティブなメッセージの説得力が増すからである。一方で、米国の自動車メーカーなど、傾きかけている会社は、業績発表などで良いことばかり先に言って、後で都合の悪いことを言うので、折角の「良いこと」すら評価されなくなってしまう。

Consensus(社会的証明)は、特に日本人には当てはまりやすい。つまり、「皆やってるから…」というヤツである。これも不確実性が高い世の中にあっては、リスク回避のために皆が依存したくなる心理であろう。

皆「なるほど」と思うことばかりで、言われてみれば当たり前にも聞こえるのだが、こうして体系的に、しかも具体的な実例を交えて説明されると、非常に整理されて面白い。
ベストセラーの著者の話を聞いたことは初めてではないが、往々にして話よりも本の方が面白かったりするものである。それが博士の場合は、本に書かれた理論に準拠しながらもそこに付加価値をつけて提供してくれるのだから、恐れ入った。脱帽です。


Douglas (Doug) Stone
ハーバード・ロースクールで交渉術を教える講師であり、交渉術をトレーニングするTriad Consulting Groupという会社の創業者でもある。彼が教えてくれたのは、不況で経済が不活発になると、皆が疑心暗鬼になったり、少ない商機を逃すものかと過度にアグレッシブになったりして失敗しがちであり、こういうときこそしっかりと顧客の声に耳を傾けることで、交渉が前進する、ということ。いくつかポイントを挙げると:
  • 相手の話を良く聞くことで、自分が交渉において自分が押し込まれるのではなく、説得のための材料が増える、と理解すべき。「いや私の言いたいのはそういう事じゃなくて…」とか「ちょっと説明させてください」とかと言って、相手の話を十分聞かずに自説を展開するのは、決して得策ではない
  • 誰しもNoという答えを聞きたくはないが、それ以上に避けたいのは、「悪いYes」、「悪いNo」。「悪いYes」とは、そのときはYesと言ったものの、後になって「あのときNoと言っておくべきだった!」と大きな後悔をする場合。「悪いNo」はもっと悪く(もったいなく)、「あのときYesと言っておけば良かった」と後悔する場合。これらを避けるためにも、良く相手の言うことに耳を傾け、互いに十分に理解を深めるべき
  • 人間は目の前の現象や事実について、何らかの意図がそこにあると思いがちであり、またその意図は自分にとってあまり好ましくないものであると想像する傾向がある。例えば夜道を歩いているときに誰かが後ろから近づいてくると、何か自分に悪意をもった人が自分を捉えようとしていると想像しがちで、自分の親友が追いかけてきているのではないか、とはあまり思わない。不確実性の高い現在のような状況では、こうした傾向がより強まり、誤解に繋がりやすい。同じ事実や現象に相手が違った解釈をしている可能性を意識し、そうであった場合はなぜそういう見方をしているのか、理解に努めることが重要。言い換えれば、「私は正しいが彼は間違っている」という二元論ではなく、「私と彼は違ったものの見方をしている」と捉えることが、理解や説得の大前提
いずれも言われてみればごもっともなのだが、普段なかなかできていないポイントではないだろうか


Mick Mountz
以前このブログでも取り上げた物流機器メーカーKiva Systemsの創業者兼CEO。創業以来彼が現場の経験で獲得してきた営業の原則は、不況下の営業活動でより一層重要な教訓に聞こえた。
まず、商品のトライアル(試用)をしてもらう場合、実費程度で良いので多少のコストを支払ってもらうことが重要。お試し利用は、新商品の営業でよく使われる提案であるが、まったく無料で提供してしまうと、顧客が真剣に商品を評価しようとしなかったり、正しい意思決定者に辿りつけなかったりして、本成約に至る可能性が低くなるという。
また、提案する商品やサービスを使った場合の顧客の姿を、極力具体的にイメージしてもらえるようにする努力が重要。彼らの場合、自社の物流機器を使った工場のデモ動画を顧客に持っていく際に、デモ動画の中で運ばれる荷物に、顧客企業のロゴを入れて、いかにも顧客企業の倉庫であるように見せることで、成功してきたらしい。
最後に、自分たちができることを提案し売り込むのではなく、自分たちが得意なことを提案・営業するべき、というのが彼の信念。特になかなか売上が上がらないときには、何でも良いから売上を獲得しようと焦り、本来自分たちが得意なことでなくても、アレもできるコレもできると風呂敷を広げて、結果的に商品やサービスについての顧客満足度を下げる、という罠に陥りやすい。


いずれも、非常に具体的かつ普遍的な教訓であり、行動原則の確認・再構築という意味で、大いに勉強になった。長くなったが、自分のメモとして、また読み返すようにしたい。


 前参議院議員の武見敬三氏の講演があったので、聴講してきた。

民主党が勝利した前回の参議院選挙において全国比例区で18万5千票を集めるものの次点落選し、現在はハーバード大学医療財政研究所で客員研究員をやられているとのこと。ボストンには本当にいろいろな人がいる。
日本医師会元会長の息子さんであり、麻生太郎首相とも血縁関係にあるとのことで、また自民党の得意な血縁議員かと失礼ながらあまり評価していなかったが、お話を伺って、見識の高さ、論理展開の明確さ、お話のわかり易さ、緩急などに驚かされた。日本の政治家には珍しいほどの分析力、論理力とお見受けした。
講演の内容は、小泉改革に端を発した自民党内のパワーバランスの変化、国民の間での政治論点の変化、それを踏まえた民主党の政権奪取戦略、自民党の生存戦略を分析し、今後の政界再編の可能性と意義について解説するというもので、時間を感じさせない、非常に面白く、それでいてわかりやすいお話であった。

以下、いつもながら簡単に要旨を書いておく。
  • 小泉政治は改革的な国内政策を独特の政治手法で推し進めたが、その裏では国民生活を疲弊させた。一方で旧橋本派を中心とする自民党の既存の派閥力学を破壊し、森派を最大派閥として君臨させる反面、伝統的な自民党支援団体の衰退と離反を招いた
    • 政策的には、財政緊縮路線の改革的国内政策、それを支える財務省との緊密な連携(麻生政権はこれが弱く、序盤苦労する)。一方で外交・安全保障政策は極めて保守的(日米同盟重視、靖国参拝など)
    • 飯島秘書官が支えた新しいメディア手法(これまで注目されなかった雑誌媒体の活用、勧善懲悪的構図による政敵への国民批判の扇動)
    • 「自民党をぶっ壊す」の意味は「橋本派をぶっ壊す」。言い換えれば角福戦争の福田系派閥によるリベンジ
      • 橋本派議員は小泉政権下で100人から69人に激減。一方で福田系の森派は58人から88人に激増(「チルドレン」を入れると実数100名以上)
      • 一方で自民党の伝統的支援団体の窓口は代々田中系の派閥(=橋本派)が担ってきたため、これが衰退したことで自民党支援団体の衰退と離反が進んだ
    • 社会保障サービスの弱体化(医師数削減、医療費補助削減)、地方格差拡大による国民の改革疲れと反発(人気のある小泉氏が首相から退いた後噴出)
  • 民主党の政権交代戦略は、小泉改革に対する国民の疲れ、年金制度・社会保障問題への自民党の対応のまずさを突き、労組の支援もあって序盤は成功。しかし小沢代表公設秘書政治資金規正法違反問題がボディーブローのようにきいてくる
  • これに対する自民党の生存戦略は、当初は国民に人気のある人物をリーダーに担ぐことであったが、現在は景気対策にシフト。外交上の追い風もあり、徐々に効果をあげている
    • 極めて大型、攻めの景気対策。小泉政権以来の緊縮財政路線の実質棚上げ
    • 官邸機能強化(内閣人事局設置法案等)による政策自由度確保
    • オバマ政権による自民党へのテコ入れ北朝鮮ミサイル問題などの外交上の追い風は、麻生政権にとって極めて大きい
      • オバマ氏は100カ国以上の首脳が会談を希望する中で麻生首相と最初に会談
      • ヒラリー氏と会談まで行ったにも関わらず、その後「米軍は第7艦隊だけでいい」というような外交上の方針を変える発言をした小沢氏の「失策」も、米国による自民党のテコ入れを後押し
    • 武藤元次官の安全安心確立会議への取り込みなどによる財務省との妥協の成立。補正予算の財源をどう確保するかが注目される
  • いずれにせよ、ねじれ解消を推進力として、再編(or大連立)の可能性は極めて大きい
    • 次の衆議院総選挙が大きな歴史的転換期となる
    • ねじれ解消の方法としてとりあえず大連立で逃れたとしても、長続きはせず、いずれ政界再編に至る
    • 第一期の再編は次の衆議院総選挙と来年7月の参議院選挙の間に起きる
  • 政界再編の意義は、行政府が突出した三権分立体制のバランス再構築(立法府の役割拡大)であり、より本質的(理想的?)には、日本社会の将来目標、国際社会における在り方、天皇制の役割の再設定の機会。明治の時代に匹敵する大きな転換期といえる

各論の賛否はともかくとして、氏ご自身の世界観、鳥瞰図をお持ちであり、またそれを冷静・論理的に解説されるところに感銘をうけた。良い意味で、日本の政治家には稀有なのではないだろうか。その点をご本人に伺うと、論理的な政策立案能力だけでは政治はなかなか動かない、優れた政治家は人の心の機微のわかる力と決断能力が必要だ、とおっしゃっていた。ご尤もなのだが、「(地元の)人の心の機微のわかる力」だけで政治家をやっている人が多すぎる気もやはりする。
また政界に復帰されて、日本政治を少しでも良い方向に牽引していただきたいと思った。

 ときどき参加させてもらっているボストン日本人研究者交流会の月次講演、今月は早稲田大学の山本武彦教授が演題に立つということで、聞きに行ってきた。演題は、「東アジアにおける科学技術のもつ安全保障上の意味」。恐らく多くのビジネススクール学生がそうであるように、私も普段はビジネスに関係した話題、言い換えれば「民間レベル」の問題にばかり注目したり考えたりしているので、軍事、外交、規制といった国家レベルの論点には疎くなっている。一方で、こうした上層構造レベルの論点は、民間のビジネス論点を考える上では「外部要件」として半ば諦めの境地で見られるものの、その重要性は今更強調するまでもなく、少なくとも問題の所在や議論の方向性を理解しておくことは必須であろう。というわけで、勉強させてもらいに行った。
以下、私が理解した範囲での簡単な要約を記しておく。
  • 安全保障戦略(Geo-strategy)は、地政学(Geo-politics)と地経学(Geo-economics)からなり、これら2つの要素を媒介する変数として、科学技術の発展・育成・管理戦略がある。教授はこれを地技学(Geo-science and technology)と呼ぶ
  •  両世界大戦期から冷戦期にかけて、世界の科学技術の進歩は軍需産業がリードしてきたが、現在(80年代以降)はむしろ民需産業がリードするかたちになり、民間経済のグローバル化と相まって、こうした技術の囲い込み、コントロールが大きな政策争点となっている
    • かつては軍需から民需への技術転用(Spin-off)が民需経済の技術革新を促してきた。パソコン、インターネットなどがその典型例。しかし今では、軍需・民需の技術上の垣根がほぼなくなり、民需用として開発された技術が軍需に転用される(Spin-on)方が多くなっている。例えば飛行機の機影をレーダーで捉えられなくするステルス技術は、もともとはTDKが電子レンジ用に開発した技術
    • 民需用として開発され、世界中に伝播した技術が、伝わった先で軍需転用され、自国の安全保障を脅かす、という可能性が高まり、そうした実例も増えている
    • 9.11のテロも、民需技術(航空機、超高層ビル)を最大限に利用したテロという見方もでき、その意味では科学技術の大いなる逆説、ともいえる
    • これらをコントロールするために米国では特に80年代以降様々な政策がとられてきた。安全保障上重要な技術を有する米国企業への外国人・法人の投資を規制するForeign Investment & National Security Actや、米国で活動する技術者の米国からの海外渡航を規制するDeemed Export Controlはその典型例(ちなみに後で知ったことだが、MITの研究者もしっかりDeemed Exportの規制対象となっている
  • 日本でもこうした争点について近年議論が行われるようになり、いくつかの規制も敷かれているが、北朝鮮をはじめとする東アジアの安全保障上の脅威を踏まえ、より慎重に対応する必要がある
    • Jパワー社の買収で話題となった2007年の外為法26条改正(対内直接投資の自由化を原則としつつ、国際的な投資ルールの枠内で、安全保障等の理由に基づき、一部業種に限定して対内直接投資に対する規制(審査付事前届出制度)を導入)は、米国の規制に倣った技術囲い込みの事例
    • しかしながら、現在もまだ日本の安全保障に関わる国産技術が東アジア諸国に流れている。例えば北朝鮮には、主に台湾経由で技術が伝えられている。テポドンの主要技術も、多くは日本の技術だという説もある

山本教授のお話を伺ったのは初めてだったが、ある意味で典型的な日本の研究者という感じで、お話の背後に圧倒的な教養と深い知識を感じさせられる一方で、講演は論旨・結論がもう一つはっきりせず、ちょっともったいない気がした。上記のまとめも、教授がこのようにお話しになったわけではなく、前後する議論を私なりに整理したものなので、もしかしたら教授が本当に強調したかったポイントは他にあるのかもしれない。

ともかく、こうした論点は重要だが普段気に留めないポイントであり、いろいろと考えさせられた。ビジネスをやる上では、科学技術の発展は一般的に「良いこと」であり、時にはCDがレコードを駆逐したような既存技術の陳腐化という文脈で「脅威」になることはあっても、全体としては大いに奨励されるべきものである。そしてその発展のために国際的な協力が必要であればやるべきだろうし、研究の果実として得られた新技術やそれを活用した新製品は、できるだけ多くの市場に販売されるべきだろう。しかしそれがテロなどの脅威を増幅し、思ってもみないシッペ返しとなる可能性もある…。人口増幅と資源消費を加速させる科学技術の進歩に対してブレーキをかける、科学技術そのものの内在的な制御の仕組みなのかもしれない。


 今日はJapan Clubの主催で、セブンイレブンの米国法人である7-Eleven, Inc.から、CEOのJoe DePinto氏とCOOの朝倉正昭氏をお招きして、同社の米国における改革と成長戦略についてご講演いただいた。

同社とは、昨春のJapan Trekで日本のセブンイレブン本社にお伺いして以来のご縁である。同Trekでの参加者の反応が非常に良かったこと、また製造業以外にも日本が世界に誇れる産業があるということを知ってもらいたかったことなどから、日本の本社を通じて去る6月に幹部の来校・講演を依頼したところ、ほとんど二つ返事で、しかもトップお二人の来校を快諾いただくことができた。

プレゼンテーションの内容を鑑み、興味のありそうな対象に絞って宣伝したこともあり、会場は立ち見が出るほどの満員。このMBA就職氷河期に、就職に直結しない講演ながら70名を超える学生が集まったという事実には、やはりMBAは就職予備校的な役割だけではないのね、と多少ほっとした。

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さて、内容であるが、この手のプレゼンテーションが往々にしてウェブサイトに書かれたような情報のまとめに過ぎないのに対し、かなり具体的な内容に踏み込んだ、興味深いものであった。以下、簡単にまとめておく。

立地・出店戦略
日本のセブンイレブン、あるいはコンビニ業界と比較した際に、同社米国事業のおかれた状況はさまざまな側面で異なるが、もっとも大きな違いの一つが、この出店状況。
日本のコンビニが全国に約4万店あり、その約3割、つまり約12,000店がセブンイレブンであるのに対し、米国のコンビニ(あるいはそれに類する商店)は14万店あり、セブンイレブンは6,200店、つまり4%に過ぎない。全体の7割は独立の所謂パパママ商店である。
こうしたパパママ商店の経営はかなり苦しいはずである、とDePinto氏は推察する。セブンイレブンの平均店舗に比べて、店舗あたりの年商で3,500万円、粗利益率で7%ほどの格差があると想定されるからである。
一方で、7-Eleven, Inc.の課題としては、6,200店が大都市を中心に展開しているといえども分散しており、日本のセブンイレブンの成功の秘訣の一つといわれる地域独占戦略から程遠い、という状況がある。
そこで同社は、郊外の孤立した店舗を売却し、一方で大都市圏で選択的にパパママ商店のチェーン加盟を促し、地域独占戦略を米国でも実行する計画らしい。これが本当に実現すれば、7-Eleven, Inc.の物流面を中心にした効率改善、人々の生活に与えるインパクトは測り知れないだろう。

店舗運営改革
日本のセブンイレブンの店舗では、「単品管理」と呼ばれる在庫・発注管理が徹底されている。強力なITシステムを武器に、各店舗の店長が個々の商品の自店在庫状況、売上状況、周辺店舗における売上動向などを見ながら、追加発注の時期・量や別の商品との入れ替えを決めていく、という仕組みで、店側の自主性・モチベーションを高め、地域ごとの細かい需要の違いを反映することができるという強みがある。7-Eleven, Inc.はこれを米国でも導入しようと努めている。そのために、必要な教育、IT投資を行うとともに、店舗の所有形態も、過半数を占めていた本部直営店舗をフランチャイズ店に転換させ、店側の考え方、姿勢を変えた。
これが徹底されれば、人気商品の欠品や不人気商品の滞留といった米国の小売店にありがちな問題が解消されるばかりでなく、自店の経営・顧客のことを店長・従業員がより真剣に考えるようになり、サービス面でも改善が期待されるという。確かにボストンに来た当初、MITの近くのセブンイレブンに立ち寄って、否定的な意味での「衝撃」を受けたのを覚えている。是非改善に期待したい。

商品戦略
顧客の求めるものをより的確に提供し、さらにメーカーに対する流通側の発言力を高めるために、プライベートブランド商品の拡充が図られている。日本では毎週100以上の新商品が投入され、1年で70%の商品が入れ替わるといい、コンビニが飲料などの消費者向け商品のライフサイクルを不必要に縮めてきたとまでいわれているが、そこまで行かなくとも、より流通側、つまり消費者に近い立場の意見を商品作りに反映させていきたいという。そのためには、メーカーに自らが掴んだ顧客ニーズを伝え、商品設計に参画していくだけでなく、自らの主導でプライベートブランド商品を作ることが合理的だと、DePinto氏は語る。
また日本のコンビニエンスストアの売上は、食品・飲料が7割を占めるが、米国のコンビニエンスストアの売上はガソリンとタバコの売上で全体の6割を占めており、喫煙人口の減少や原油価格の変動、税制の変更などの外部環境の影響を受けやすい上に、利益率が低い。7-Eleven, Inc.では徐々に食品の売上比率を高め、売上構成を日本に近いかたちにもっていくことを目指している。そのために、米国人の好むHot Food(ピザやホットドッグなど)を新たに開発し、今のところ順調に売上を伸ばしているらしい。

物流改革
最後に、物流面であるが、Big Boxといわれる大型店舗(ウォールマート、コストコなど)が強く、また全体に流通よりもメーカーが強い米国では、DSD (Direct Store Delivery) と呼ばれるメーカーからの店舗への商品直納が主要な物流形態となっている。7-Eleven, Inc.ではこれが非常な非効率を生んでいる。何しろ、個別の商品の配送頻度は少ない(せいぜい週1回)にも関わらず、無数の大型トラックがそれぞれのメーカーから押し寄せ、商品を下ろしていくのである。多い日には、一日に15便ほどもトラックが押し寄せるらしく、それらが来客の導線となる店の正面をそのたびに塞ぐために、かなりの営業阻害要因となっている。在庫管理の観点からも非常に効率が悪い。
そこで、7-Eleven, Inc.では、これも日本の例に倣って、物流業務における自社の管理範囲の拡大を図っている。つまり前述の改革で密集させた店舗群に近接した倉庫を配置し、メーカーからは店舗ではなくその倉庫に配送してもらう。そして店舗から、複数メーカーの商品を混載した専用トラックで店舗まで運ぶのである。こうすることで、トータルでみた物流効率が飛躍的に改善するという。実際、日本のセブンイレブンでも、創業当初は一週間で一店舗あたり70回もあった商品配送を、2000年代には9回にまで圧縮し、物流効率を高めている。

こうしてみてくると、日本のオペレーションの模倣を基本としながらも、膨大な可能性を秘めた米国の小規模商店ビジネスに果敢にチャレンジしている同社の姿が良くわかる。日本型サービス業が米国社会でどこまで成功を収めることができるのか - 是非注目したい。

最後に、お越しいただいたDePinto氏、朝倉氏に心より感謝申し上げます。



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職業:
経営コンサルタント
趣味:
旅行、ジャズ鑑賞
自己紹介:
世の中を素直に見ることが苦手な関西人。
MITスローン校でのMBA、プライベート・エクイティでのインターン、アパレル会社SloanGearの経営、そして米国での生活から、何を感じ、何を学ぶのかー。

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