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「 Private Equity 」
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お世話になっているPEファームの東京オフィスをより良く知るように、という計らいで、昨日からパートナー(MD、プリンシパル)クラスとの一対一のランチが、シリーズで設定されている。
今回のインターンを実現させるにあたって骨を折ってくださった某プリンシパルのアイデアのようで、私もそのご厚意をありがたく受けている。

第一回となった昨日は、あるMDとのランチであった。オフィスレベルでもファームレベルでも、肩書きとして明示的に一人のリーダーを押し立てないのがこのファームのやり方だが、事実上彼が東京事務所のリーダーである。目の回りそうに忙しい毎日の中で、1時間を私に割いてくれたことに感謝を禁じえない。

そして今日は、東京としての最初の投資案件で、会長として派遣され改革をリードしたYさんとの食事であった。
同ファンドが投資後、我々がコンサルタントとして再建の青写真を書き、プロジェクトの終盤にYさんが会長として着任されて、その後の実行を指揮してくださった。日米のメーカー数社で実績を重ね、直前まで米系メーカーの日本法人の社長を務められていたYさんは、閉鎖的な業界で古い体質を残してきた同投資先日本メーカーにとっては、衝撃的な存在であった。

報告は、事実を論理的に積み上げたものでなければ突き返す。
自分で論理を整理し、筋が合わなければとことん追及する。
目標は世の中とのベンチマークで設定され、「対前年○%」といった社内の論理では通用しない。
目標設定だけでなく、方法もときに極めて具体的に指示する。
現場に予告なく現れては、担当者レベルと直接会話する。
聖域を許さない。
英語でも何不自由なく議論する。

などなど、コンサルタントであった我々からすると至極当たり前のことだが、投資先メーカーの方々には宇宙人のようにみえたらしい。再建プロジェクトにおいては、中心的なメンバーであった人々には我々の考え方を十分理解していただいていたが、その後のその全社的な拡大、完遂は、Yさんの力なくしては望めなかったかもしれない。
そんなYさんが、外部からトップとして会社に入り、その会社を変革する上でのポイントを語ってくださった。
  • まずは現場を虚心坦懐にみること。何が大事か、どう動くかは、現場をみてから考える。但し、焦らずじっくり現場をみてから決断するためには、打ち手の引き出しが豊富でなければならないという
  • そして決めたら、ぶれないこと。しつこく言い続けること。確かにYさんは、自身が大事だと思った最大5つくらいのポイントについては、皆が辟易するほど言い続けていた
  • 目標は、皆が想像しているよりも高めに言うこと。特に業績か下降局面で、皆が対前年でマイナスになると思っているようなときも、プラスで目標を打ち立てる。但し、言いっ放しではなく、どうやったら達成できるか、具体的なヒントを示してやる。そしてごく一部でも良いので、成功体験を積ませる
こうして書いてみると、至極当たり前のことのようだが、それをただ講釈するのと、やり切ったあとに振り返るのとでは、まったく別のことである。

更に、事を進める上での人事施策にも触れて下さった。
  • まずは、皆が何をインセンティブにしているかを理解すること。
  • 次に、戦略遂行のために、新しいインセンティブを導入すること。特に営業には、わかりやすいインセンティブが重要。
  • 象徴的な人事も必要。その中には、結果として懲罰的な人事も含まれることがあるが、その場合は世論形成を慎重に待って自分で決める。誰かに相談したりはしない。
  • 皆ができないと思っている中で、リスクを負って旗を振れる人間は大切にする。
  • 担当者レベルには、頑張る方向を与える。具体的には、考える力で勝負するタイプと、ガッツと手数で勝負するタイプ、自分がどちらで頑張るかを選ばせる。人は自分で選んだものならば頑張れる。
彼がリーダーシップを振るった同メーカーは、主力製品の抜本的な改善を成し遂げ、当たり前のようになっていた販売価格の下落も食い止め、コア事業の大幅な収益改善を達成した。もともと自信の強い(ように見える)方だが、その自信がより深くなっているようであった。
「メーカーであれば、どこに行っても経営者はやれる」
と言い切っていた。
もちろん、トヨタや松下のような大企業ならば、組織経営の複雑さが違うので別のスキルが求められるような気がするが、社員数にして2,000人くらいまでなら、本当にどこでも経営者として切り盛りされるだろうと、失礼ながら想像していた。

日本ではまだ数少ない、プロ経営者。
そうした方と実際に仕事が出来、こうして身近に言葉を交わすことができるのは、大変な幸せだと、改めて思う。

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東京でのインターンの初日である。
本来は、昨日(月曜日)からの予定であったが、途中とんでも航空会社ユナイテッド航空のトラブルで足止めを喰らい、予定よりも24時間遅れて成田空港に到着したため(詳細は書くとまた腹が立つので割愛する)、1日遅れての東京のオフィスへの出社となった。

東京では、インターン先のファームが、神宮外苑の近くにマンションを借りてくれている。外苑前駅と表参道駅の間くらいの、閑静な場所である。家族4人が快適に過ごすに十分な広さの物件を手配してもらって、感謝の言葉もない。
妻は広めで食器洗浄器のついたキッチンに喜び、娘は朝の日本語子供番組に興奮していた。

朝は、表参道駅から地下鉄で出勤する。
駅に向かう途中のコンビニで日経新聞を買い、見知った通りを歩いて見知った列車に乗り込み、同じような格好で汗ばむ日本人ばかりの車両で人いきれに咽ながら新聞を読む。
かつて毎日繰り返していた行動パターンだが、突然のことで体と神経が十分に切り替わっておらず、どこかぎこちない。なんとなく新入社員のような身動きで、それが自分でもわかるので気恥ずかしくなる。

世界的PEファームといえど、その東京オフィスは、日本のPE市場の歴史の浅さを反映して、まだ発展途上という空気を放っている。質量ともに目覚しいペースで陣容を拡大させているとはいえ、まだ小規模で、朝の挨拶回りもものの5分ほどで済んだ。
自分のデスクに案内され、備品の説明などを受け、その5分後には自分がアサインされるプロジェクトが告げられ、10分後には既にその社内ミーティングに出席していた。
それでも、ボストンで基本動作をある程度身に着けていたこと、さらに何よりやり取りが日本語であることから、比較的スムーズに仕事に入っていくことができた。

これから5週間、どこまで自分がやれるのか、このオフィスの面々がどういう仕事をするのか、楽しみである。



本日をもって、ボストンのPEファームでの5週間のインターンが終了した。
週末に移動、翌週月曜日からは同じファームの東京事務所で、あと5週間のインターンが始まる。
非常に月並みな表現だが、あっという間の5週間であった。
仕事ばかりでなく、NBA Finalの観戦やゴルフコンペなどイベントも多く、こんなことをしながら給料をもらっていいのだろうか、と恐縮してしまうこともあったが、まあ貧乏学生なので、くれるものはありがたくいただいておく。

そもそもボストンでのインターンを希望したのは、ここに家族がいるからという理由も大きかったが、やはりPE業界、さらには投資ファンド全般にとってのホームグラウンドであり、業界の成熟度・社会的地位が高いこの国の最先端を行くファームで、ファームおよび世界がどう動いているのか、何が具体的に日本と違うのか、何が成功要因か、そして自分は人材としてどれだけ通用するのか、そんな点について観てみたい、という目的があった。

さて、ここまで何を学んだか-。
東京での生活(恐らく殺人的に多忙な)が始まる前に、整理しておきたい。

まず、成功要因(ファームとして、そして一人のプロフェッショナルとして)として、3つのポイントを挙げておきたい。

①選択と集中
昨日の項でも書いたが、とにかく枝葉末節を切り捨て、検討すべきポイントを絞り込み、そこを集中的に分析する。
企業価値評価の中でも、Business Diligenceといわれる、業界の魅力度や企業の競争力など事業の本質的な価値を診断する分野で、このPEファームは定評がある。米国のPEファームは、毎度競争ばかりしているわけではなく、大型案件などでは数社でグループ(シンジケート)を組んで投資することがあるが、このPEファームがシンジケートに入っていると、他社はこのファームのBusiness Diligenceの結果を皆待つのだという。とはいえ、米国の最大手PEファーム(定義にもよるが4~10社)の人材はどこも超エリート揃いであり、そもそもの人材の質において大きな差があるわけでもないらしい。ではなぜそれだけ差がでるのか、という質問に対して、あるシニアメンバーは、
“When you can’t be cleverer than the others, only what you can do is to focus more on the right issues and to spend more time on them”
と語っていた。
それだけ、深く突っ込んだ検討と、深く突っ込むためのキモとなる部分の見極めが重要視されている。

②執着心
絞り込んだ点については、当然他人よりも深く検討しなければならない(そのために絞り込んでいる)。ここで、自分たちが「事実」と信じられる情報を得るために、執拗なまでにターゲットの業界、企業について調べる。
このPEファームの一般的な案件取引は、対象企業を買収し、売上拡大、収益性改善、一部遊休資産の売却、あるいは類似企業の更なる買収による規模拡大などを実行した後、初期投資から5年後を目処に当該企業を売却(市場での株式再公開、事業会社への売却、あるいは他のPEファームへの売却)を目指す。つまり、5年後までに当該企業がどれだけ収益拡大できるかが、投資判断を左右する。その企業の市場シェアがよほど小さい場合を除いて、企業の成長を図るための基本的な分析軸は、「市場規模がどれだけ拡大するか、シェアがどれだけ伸びるか」である。シェアを伸ばす、というのは、よほど具体的な方法がない限り、なかなか信用されない。市場が拡大し、それに乗じて成長する、という方がリスクは少ない。そしてこのシナリオを信じるためには、市場がどれだけ拡大するかを、あらゆる角度から検証しなければならない。しかも、これが年率4%の成長なのか5%の成長なのかで入札額が大きく変わってくるため、どこかの市場調査報告書を引用してきて「○○研究所によると、だいたい今後5年間は年率4%程度で成長するようです」というような説明では、到底受け入れられない。私が携わった案件の一つでも、ある保険商品の今後の市場規模(毎年の発行額と発行済満期前証券総額)として業界団体の公表している数字を引用したのだが、シニアメンバーから「その団体はどこからどうやって元となる数字を得ているのか」「その数字をどう計算して市場規模の予測に至っているのか」という質問を受け、答えに窮した。持ち帰って調べてみると、証券の発行ごとに保険会社は監督官庁に報告義務があり、その内容が業界団体にも転送される仕組みになっていることが解った。数字の出所としては、極めて信頼性が高い。この数字を元に、業界団体は今後の米国の70歳以上の人口増加率(米国国勢調査による)と人口に対する保険利用者の割合の増加率(過去10年間の増加率の引き伸ばし)を加味して、今後の市場予測を立てていた。ところが、この保険利用者の割合は5年前までは微増していたが、過去5年間は全く伸びていなかった。さらに、発行済満期前証券総額の計算において、発行後かなりの年数が経ち既に満期ないし支払い済みになっているであろう保険の金額を差し引かず、毎年の発行額を単純に加算し続けていたことも判った。そしてこれらを修正して市場規模予測を再計算すると、当初の数字よりも1%弱小さい成長率となった。
この案件の場合、これが決定打となり、事実上見送りとなったが、買収に向けてさらに本格的に動き出した案件は、さらに執拗に市場規模を調べたり、当該企業のシェアを脅かす競合他社の動きがないかを調べたり、うんざりするほどの検討が行われる。
こうした知力を尽くした検討が年間数百件行われ、内10件程度に実際の投資が行われる。一見無駄のようにもみえるが、こうした努力がやがて業界に対する深い知見とネットワークをファームの中に育むこととなり、検討の効率と鋭さを磨いていく。つまり、ノウハウの育成である。これが例えば、担保の有無だけで融資を判断するどこかの国の金融機関との大きな違いを生む。

③知的衝突
検討の過程では、シニアメンバーは決まって、ジュニアメンバーと逆のことを敢えて言う。つまり、ジュニアメンバーが案件に対して前向きで、楽観的な企業価値評価を持ってきた場合は、悲観的な材料を次々に提示して回答を迫り、逆にジュニアメンバーが案件に対して慎重な立場の検討結果を持ってくると、収益拡大の可能性をいくつか示して検討を求める。
PE投資には、楽観論と悲観論の健全な二面性が不可欠である。収益拡大の可能性を前広に検討し、他ファームが見ていない収益機会を見つけることが、競争力のある入札価格に繋がる一方で、投資先の戦略をかなり懐疑的に見て、リスクを慎重に検討しなければ、大損をする。PEファームは投資をしないことには収益を上げられないが、およそ10件の投資のうち実際に収益をもたらすのはせいぜい5-6件で、他の4-5件は多少の損をしてしまう。この損をする案件の数を5件ではなく4件にすることが、二流ファームと最大手ファームの差となる。
このバランスを保つためには、検討チーム内、あるいはファーム全体での知的な衝突が不可欠だと信じられている。紳士的だがかなり厳しい議論が、連日繰り広げられる。 


次に、米国のPE業界はどう動いているのか。
 
結論としては、成熟度が高いが、これからもまだまだ成長しうる業界だと感じた。
成熟度の高さは、例えば投資銀行などの金融機関との関係や、投資家との関係から見てとれる。
ほぼすべてのファームが、ほぼすべての投資銀行と日常的に交渉しているので、競争原理が働き、投資銀行はいい加減な融資提案をできない。投資家からの信用も厚い。例えば投資資金のかなりの割合は、米国中の大学の運用資金から来ている。ロックフェラー家やゲイツ家のような大金持ちの資金も寄せられている。そして彼らから投資先の選定について云々言われることは全くないという。
投資される側も、多くはPEファームを日常的なツールと見ている。案件は毎日のように持ち込まれてくる。先の大統領選挙予備選で、HuckabeeがRomney批判の一つの切り口としてPEファームの批判をしていたが、少なくとも企業経営者やオーナーの多くは、そうした感情的な見方をしていないように思われた。それどころか、かつて資金獲得目的や名誉目的で株式公開したものの今やその必要性の薄らいだ企業が、公開維持に伴うコストを嫌がって非公開化するケースも増えており、PEファームの資金へのニーズとなっている。
一方で、不安要素もある。入札価格を巡る競争が激化し、高めの価格を正当化するために、あたかも投資先が今後5年間完璧な経営をすることが前提になったようなシナリオが描かれる。大手PEファームKKRの幹部はこれを「Price to Perfection」と形容したらしいが、まさにその通りである。が、実際の企業経営は当然ながらそうそう上手く行くものではない。この傾向が続けば、業界全体としての収益性の低下は免れないように思う。 


最後に、自分がどれだけ通用するか

これについてははっきりとした結論が得られなかった。指示された分析はほぼ期待通りにこなせたと思うが、HBSにすら行っていない怪しい日本人に対しての期待値がそもそも低かったような気もする。この部分は、今後5週間の東京でのインターンで検証するしかなさそうである。


どこの会社でも、業界用語というか、そこでのみ罷り通る言葉がある。
皆最初は違和感を覚えるはずだが、強力な浸透力で皆に染み渡っていくので、その組織に暫くいるとまったく気にもしなくなる。ただ、インターンのようなかたちでひょっこり組織に入っていくと、やはりそうした言葉には敏感に反応してしまう。
ボストンでインターン中のPEファームにもそういう言葉がいくつかあり、なるほど、と思わされる。
いくつか、代表的なものを記録しておきたい。

WYHTB
What You Have To Believeの略。
これが本当だったらこの会社に投資してもいい、と言い切れるようなポイント(せいぜい5つまで)のことである。
コンサルタント出身のシニアメンバーに、コンサルティングとPEの違いについて聞いたとき、彼が最初にいったのが、「PEの方が短時間で多くの案件を捌き、かつ入札で競争先となるところが知らない・気づかない視点を持てるかが勝負なので、コンサルティングに比べてより絞り込んだポイントについて、執拗なまでに徹底的に調べ上げる点にある」ということだった。この絞り込んだポイントが、WYHTB。
ある会社をもってきて、ここは投資先として魅力的でない、ということを証明するのはなかなか難しい。そもそも何か面白みがある会社が最初に検討の網に引っかかっているはずである。ゆえに、まずは「この会社は投資に値する先だ」という結論をおいてみて、この結論を自分を含めたファームの皆が納得するためには、何が証明されないといけないかを、最初に徹底的に考えて、これを手分けして調べ上げる。もちろん、調べていく仮定で、より重要なポイントがみつかったり、検討しているものが実は的外れであることがわかったりする場合もあり、そうした場合はWYHTBのリストも見直す。ただ、いずれにせよ最も大切なのは、チーム全員がWYHTBの全体像を理解していて、そこに全知性を投入することにある。
コンサルティングをしていても、論点の絞込みの大切さはよく強調されることではあるが、確かにここではそれがより一層徹底されているようだ。

Catch Up
文字通り、追いつく、という意味だが、よく使う。
面白いのは、シニアメンバーが我々とミーティングをする際によく使う表現であること。
例えば、今度の水曜日に進捗を報告してくれ、という意味で、
"Let me catch up you guys on next Wednesday"
という。
スケジュール上のミーティングのタイトルも、Catch Up <Project Name>みたいな名前になっている。
Updateとか、Reportという表現を使わない。
確かにシニアスタッフに報告するまでは、実際の日々の分析を行っているジュニアスタッフの方が、いろいろな情報や知見を握っている(はずである)。これに、シニアスタッフが追いつかせてくれ、という言い方である。そこには、細かいことは現場任せ、とは正反対の、ジュニアスタッフが知っていることはシニアスタッフも全部理解しているべき、というような構図がある。また、「追いつく」というのは、「1週間もあればこの程度先に進んでいるだろう」というシニアスタッフの期待に基づく表現でもあるので、ジュニアスタッフにしてみれば、進まなければならないというプレッシャーにもなる。

Make Sense
納得できる、というような意味。
"That makes sense"
"That does not make sense"
と毎日連発している。
自分の頭の論理構造の中で、事象について合理的に説明がつかないと気がすまない、ファームにいるのがそんな性質の人々である証左だろう。
自分に都合の悪いことだけでなく、自分に都合の良いことですら、何故かが自分の言葉で説明できないと、どうも落ち着かないらしい。
これは、自分もよく似ている気がする。

Angle
視点、というような意味。
米国のPE業界は、仕事の回し方もある程度標準化されているし、銀行からのファイナンスの条件もどこも似たようなものなので、企業価値算定の計算も、素直にやれば各社概ね同じような数字に落ち着く。
これでは競売に勝てない。
競売で勝つためには、あるいはハズレくじを引かないためには、他社がみていない視点で、独自の示唆(隠れたリスク、自社の他の投資先との協業による収益拡大の可能性、など)を見つけ出さなければならない。
もちろん、実際の入札の局面では、後だしジャンケンあり、の世界なので、売り手側についた銀行がリークしてくる情報をもとに、ほとんど公開オークションのような値上げが行われるが、これにどこまで突っ込むかを、できるだけ合理的な判断のもとに決めようという精神がある。
案件についての独自のAngleは、これの判断材料となる。
よって、あちらこちらの業界レポート、アナリストレポート、あるいは会社側プレゼンテーションの切り貼りのような資料を作ると、君のAngleは何だ、という指摘を受け、撃沈する。

他にももっとあったような気もしたが、私もここに来てすでに5週間弱、あまり気にならなくなってしまったのかもしれない。
聞いたことのない表現をしているのを見かけたら、止めてください。




2つ目の案件が、事実上終了した。
今回もまた、おそらく「没」である。

オバマが大統領になった場合、かなりの確率で増税が予想されているが、州によっては今の税率の水準からしてそのインパクトが非常に大きいようで、だったら今のうちに売ってしまえ、ということで、一部のオーナーが企業の売り抜けを急いでいるらしい。今回の案件も、そういう背景で市場に出てきたもの。当然、競争入札。ある投資銀行が音頭をとって、同業界・類似業界の企業や我々のようなPEなど、買収に興味のありそうな先に声をかけて回っている様子。そして一次入札の締め切りが今日の夕方5時。この入札で提示すべき金額を探るべく、先週木曜日から検討を重ねてきた。今の段階ではターゲット企業に関する情報が非常に限られていること、入札金額も拘束力がないこと、そして検討の時間が限られていることから、1つ目の案件に比べると非常にあっさりした、ある意味表面的な検討に終始したが、投資先の強みはどこか、どこに成長機会があるか、というあたりについての仮説はそれなりにもつことができた。

検討の結果をもって、午後5時の締め切りを前に、2時から二人の担当MDたちとミーティング。二人とも、この業界に10年以上いるベテランである。但し、一人はバンカー出身、もう一人はコンサルタント出身で、そういう先入観で見るからかもしれないが、後者の方が質問が細かい。先にやった一つ目の案件での議論とあわせて振り返るに、彼らMDの視線にはある程度共通するポイントがある。以下、具体的に整理してみる。

  • ターゲット企業の業界が今後持続的に収益をもたらすか …要するに、古典的だが、Michael Porterの5 Forcesに沿った見方。特に参入障壁と代替品の脅威を気にする
    • 参入障壁 …おいしいビジネス(つまり収益性が高く、成長していて、金回りも良いビジネス)には、遅かれ早かれ皆がおいしいと感じ、参入してくるのが資本主義の基本原則。その原則を機能させないための構造的理由(例えば法規制、巨大な初期投資、ブランド、技術力・ノウハウなど)があると、MDは喜ぶ
    • 代替品の脅威 …LPがCDにとって代わられたように、あるいはHD DVDがブルーレイ(BD)に敗北して市場から淘汰されたように、誰かが新しい商品を持って出てきて根本的に市場を変えてしまうリスクがあると、投資価値がゼロになりかねないので、そういうリスクがないですよ、ということを証明しなければならない
    • 競争 …その業界にどの程度競合がいて、彼らがどのくらい強力なのか。一番自社にとって都合がいいのは、独占
    • 顧客からの圧力 …特定の顧客への収益依存度が極端に強いと、リスクになるので嫌な感じである
    • 仕入先からの圧力 …今でいう原油のような、特定の原材料の価格変動等に伴うリスクを最小化したい
  • ターゲット企業が今後持続的に成長するための構造的強みをそなえているか
    • どこからどうカネが入ってきて、どう出て行くのか。安定的に収益を生み続ける構造か
    • ターゲット企業は彼らの顧客に対して、顧客が今後も彼らと取引し続けるに足る価値を提供しているか
    • 成長は、①既存顧客への上積み、②誰も手をつけていない顧客の取り込み、③他社からのシェア奪取、の順に難しくなる。①~②だけで十分な成長を得られるか。あるいは③を信じるに足る決定的な強みがあるか
    • 意味のある経費支出がされているか。例えば営業マンが多数いる会社であれば、それら営業マンがちゃんと仕事をしているか(今回の案件の場合、2,000人以上いる営業マンが何をしてるのかよくわからん、というのがMDの不満の一つ)
    • 当面の大きな投資の必要はないか
    • 規制変更、特許失効などの大きな法的リスクはないか
  • 当該案件への投資により、ファンドの投資先構成(ポートフォリオ)全体が特定のリスクに過度にさらされることにならないか

そんなこんなを議論。この日の結論としては、①入札しない、②ムリっぽい金額で一応入札する、③少なくとも二次入札に進めるであろう金額で入札する、という3パターンがありえるわけだが、今回の達した結論は②。ミーティング終了と同時にMD二人がレターに署名をし、その10分後にはレターが投資銀行に送付されていたが、恐らく二次入札はないだろう。
というわけで、案件2本目も実質的に終了。今回はあまり貢献できなかったので、ちょっと不完全燃焼。まあ、仕方ない。


MDとのミーティングを終えて自室に戻ると、デスクの上に給与明細を発見!およそ1年ぶりの給与所得である。やはりカネは払うより貰うほうが嬉しい。中には明細とともに小切手が同封されていた。さっそく通りの向かい側にあるBank of Americaに行き、口座に振り込む。ATMで口座情報を確認すると、残高は一気に倍増。所得があるってすばらしい。

…と、ふとみると、次女名義で預けてあった定期預金が、保留状態になっている。年始に購入した4ヶ月定期が1ヶ月ほど前に満期になったので、新たに9ヶ月定期に組み直したのだが、どうもそれが処理されていないらしい。直ちに同支店内にある投資商品を扱う窓口に問い合わせてみた。すると、
「以前手続きしたのはここの支店で私とやったのか、それとも他の支店でやったのか?他の支店でやったのなら、私はまったく関知しないし、いずれにしてもはっきりしていることは、今の時点で過去に振り返ってできることは何もないということ。できるのは、今日からそのカネをどうするか、という相談だけだ」
…出ました、米国お得意の低品質高圧力営業。しかし、1年もこういうのを相手にしていると、こちらも感覚が鈍ってしまっているのか、かなり諦めの気持ちである。はいはい、わかりましたよ、ととりあえず引き出し自由の9ヶ月定期に切り替えてさっさとサインする。担当者は、「わかればよろしい」と自らの勝利に満足した様子。こんなどうしようもない連中でも、米国の大手中の大手である銀行(=Bank of America)でそれなりのポジションについているのだから、たいしたもんである。給料も並以上にもらっているだろう。これと比較すれば、PEの人々の給料が驚くほど高いのも、少しは納得できるのかもしれない。



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経営コンサルタント
趣味:
旅行、ジャズ鑑賞
自己紹介:
世の中を素直に見ることが苦手な関西人。
MITスローン校でのMBA、プライベート・エクイティでのインターン、アパレル会社SloanGearの経営、そして米国での生活から、何を感じ、何を学ぶのかー。

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