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「 Take away from US PE intern ...ボストンでのPEインターンで学んだこと 」
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本日をもって、ボストンのPEファームでの5週間のインターンが終了した。
週末に移動、翌週月曜日からは同じファームの東京事務所で、あと5週間のインターンが始まる。
非常に月並みな表現だが、あっという間の5週間であった。
仕事ばかりでなく、NBA Finalの観戦やゴルフコンペなどイベントも多く、こんなことをしながら給料をもらっていいのだろうか、と恐縮してしまうこともあったが、まあ貧乏学生なので、くれるものはありがたくいただいておく。

そもそもボストンでのインターンを希望したのは、ここに家族がいるからという理由も大きかったが、やはりPE業界、さらには投資ファンド全般にとってのホームグラウンドであり、業界の成熟度・社会的地位が高いこの国の最先端を行くファームで、ファームおよび世界がどう動いているのか、何が具体的に日本と違うのか、何が成功要因か、そして自分は人材としてどれだけ通用するのか、そんな点について観てみたい、という目的があった。

さて、ここまで何を学んだか-。
東京での生活(恐らく殺人的に多忙な)が始まる前に、整理しておきたい。

まず、成功要因(ファームとして、そして一人のプロフェッショナルとして)として、3つのポイントを挙げておきたい。

①選択と集中
昨日の項でも書いたが、とにかく枝葉末節を切り捨て、検討すべきポイントを絞り込み、そこを集中的に分析する。
企業価値評価の中でも、Business Diligenceといわれる、業界の魅力度や企業の競争力など事業の本質的な価値を診断する分野で、このPEファームは定評がある。米国のPEファームは、毎度競争ばかりしているわけではなく、大型案件などでは数社でグループ(シンジケート)を組んで投資することがあるが、このPEファームがシンジケートに入っていると、他社はこのファームのBusiness Diligenceの結果を皆待つのだという。とはいえ、米国の最大手PEファーム(定義にもよるが4~10社)の人材はどこも超エリート揃いであり、そもそもの人材の質において大きな差があるわけでもないらしい。ではなぜそれだけ差がでるのか、という質問に対して、あるシニアメンバーは、
“When you can’t be cleverer than the others, only what you can do is to focus more on the right issues and to spend more time on them”
と語っていた。
それだけ、深く突っ込んだ検討と、深く突っ込むためのキモとなる部分の見極めが重要視されている。

②執着心
絞り込んだ点については、当然他人よりも深く検討しなければならない(そのために絞り込んでいる)。ここで、自分たちが「事実」と信じられる情報を得るために、執拗なまでにターゲットの業界、企業について調べる。
このPEファームの一般的な案件取引は、対象企業を買収し、売上拡大、収益性改善、一部遊休資産の売却、あるいは類似企業の更なる買収による規模拡大などを実行した後、初期投資から5年後を目処に当該企業を売却(市場での株式再公開、事業会社への売却、あるいは他のPEファームへの売却)を目指す。つまり、5年後までに当該企業がどれだけ収益拡大できるかが、投資判断を左右する。その企業の市場シェアがよほど小さい場合を除いて、企業の成長を図るための基本的な分析軸は、「市場規模がどれだけ拡大するか、シェアがどれだけ伸びるか」である。シェアを伸ばす、というのは、よほど具体的な方法がない限り、なかなか信用されない。市場が拡大し、それに乗じて成長する、という方がリスクは少ない。そしてこのシナリオを信じるためには、市場がどれだけ拡大するかを、あらゆる角度から検証しなければならない。しかも、これが年率4%の成長なのか5%の成長なのかで入札額が大きく変わってくるため、どこかの市場調査報告書を引用してきて「○○研究所によると、だいたい今後5年間は年率4%程度で成長するようです」というような説明では、到底受け入れられない。私が携わった案件の一つでも、ある保険商品の今後の市場規模(毎年の発行額と発行済満期前証券総額)として業界団体の公表している数字を引用したのだが、シニアメンバーから「その団体はどこからどうやって元となる数字を得ているのか」「その数字をどう計算して市場規模の予測に至っているのか」という質問を受け、答えに窮した。持ち帰って調べてみると、証券の発行ごとに保険会社は監督官庁に報告義務があり、その内容が業界団体にも転送される仕組みになっていることが解った。数字の出所としては、極めて信頼性が高い。この数字を元に、業界団体は今後の米国の70歳以上の人口増加率(米国国勢調査による)と人口に対する保険利用者の割合の増加率(過去10年間の増加率の引き伸ばし)を加味して、今後の市場予測を立てていた。ところが、この保険利用者の割合は5年前までは微増していたが、過去5年間は全く伸びていなかった。さらに、発行済満期前証券総額の計算において、発行後かなりの年数が経ち既に満期ないし支払い済みになっているであろう保険の金額を差し引かず、毎年の発行額を単純に加算し続けていたことも判った。そしてこれらを修正して市場規模予測を再計算すると、当初の数字よりも1%弱小さい成長率となった。
この案件の場合、これが決定打となり、事実上見送りとなったが、買収に向けてさらに本格的に動き出した案件は、さらに執拗に市場規模を調べたり、当該企業のシェアを脅かす競合他社の動きがないかを調べたり、うんざりするほどの検討が行われる。
こうした知力を尽くした検討が年間数百件行われ、内10件程度に実際の投資が行われる。一見無駄のようにもみえるが、こうした努力がやがて業界に対する深い知見とネットワークをファームの中に育むこととなり、検討の効率と鋭さを磨いていく。つまり、ノウハウの育成である。これが例えば、担保の有無だけで融資を判断するどこかの国の金融機関との大きな違いを生む。

③知的衝突
検討の過程では、シニアメンバーは決まって、ジュニアメンバーと逆のことを敢えて言う。つまり、ジュニアメンバーが案件に対して前向きで、楽観的な企業価値評価を持ってきた場合は、悲観的な材料を次々に提示して回答を迫り、逆にジュニアメンバーが案件に対して慎重な立場の検討結果を持ってくると、収益拡大の可能性をいくつか示して検討を求める。
PE投資には、楽観論と悲観論の健全な二面性が不可欠である。収益拡大の可能性を前広に検討し、他ファームが見ていない収益機会を見つけることが、競争力のある入札価格に繋がる一方で、投資先の戦略をかなり懐疑的に見て、リスクを慎重に検討しなければ、大損をする。PEファームは投資をしないことには収益を上げられないが、およそ10件の投資のうち実際に収益をもたらすのはせいぜい5-6件で、他の4-5件は多少の損をしてしまう。この損をする案件の数を5件ではなく4件にすることが、二流ファームと最大手ファームの差となる。
このバランスを保つためには、検討チーム内、あるいはファーム全体での知的な衝突が不可欠だと信じられている。紳士的だがかなり厳しい議論が、連日繰り広げられる。 


次に、米国のPE業界はどう動いているのか。
 
結論としては、成熟度が高いが、これからもまだまだ成長しうる業界だと感じた。
成熟度の高さは、例えば投資銀行などの金融機関との関係や、投資家との関係から見てとれる。
ほぼすべてのファームが、ほぼすべての投資銀行と日常的に交渉しているので、競争原理が働き、投資銀行はいい加減な融資提案をできない。投資家からの信用も厚い。例えば投資資金のかなりの割合は、米国中の大学の運用資金から来ている。ロックフェラー家やゲイツ家のような大金持ちの資金も寄せられている。そして彼らから投資先の選定について云々言われることは全くないという。
投資される側も、多くはPEファームを日常的なツールと見ている。案件は毎日のように持ち込まれてくる。先の大統領選挙予備選で、HuckabeeがRomney批判の一つの切り口としてPEファームの批判をしていたが、少なくとも企業経営者やオーナーの多くは、そうした感情的な見方をしていないように思われた。それどころか、かつて資金獲得目的や名誉目的で株式公開したものの今やその必要性の薄らいだ企業が、公開維持に伴うコストを嫌がって非公開化するケースも増えており、PEファームの資金へのニーズとなっている。
一方で、不安要素もある。入札価格を巡る競争が激化し、高めの価格を正当化するために、あたかも投資先が今後5年間完璧な経営をすることが前提になったようなシナリオが描かれる。大手PEファームKKRの幹部はこれを「Price to Perfection」と形容したらしいが、まさにその通りである。が、実際の企業経営は当然ながらそうそう上手く行くものではない。この傾向が続けば、業界全体としての収益性の低下は免れないように思う。 


最後に、自分がどれだけ通用するか

これについてははっきりとした結論が得られなかった。指示された分析はほぼ期待通りにこなせたと思うが、HBSにすら行っていない怪しい日本人に対しての期待値がそもそも低かったような気もする。この部分は、今後5週間の東京でのインターンで検証するしかなさそうである。
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性別:
男性
職業:
経営コンサルタント
趣味:
旅行、ジャズ鑑賞
自己紹介:
世の中を素直に見ることが苦手な関西人。
MITスローン校でのMBA、プライベート・エクイティでのインターン、アパレル会社SloanGearの経営、そして米国での生活から、何を感じ、何を学ぶのかー。

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