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「 Speaker Series 」
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月曜日のランチタイム、特に予定もなかったので、何となくOperations Management Club主催のプレゼンテーションを覗いてみたが、これが非常に面白かった。

プレゼンターは、Kiva Systemsで事業開発部長を務めるRob Stevens氏。McKinseyからFreeMarketというベンチャーに移り、スローンでMBAを取得した後、創業間もないKiva社に参画した。

彼が参画した当時のKiva社は社員20人足らず。今は社員120人を超える。
同社が開発し、提供しているのは、物流倉庫ソリューション。一言で言えば、「動く棚」である。
インターネットビジネスとグローバル・ソーシングの拡大とともに、物流は加速度的に複雑になっている。人々の商取引の自由度が、テクノロジーのおかげで時間と場所を超えて拡大する一方で、「モノを動かす」という最も根源的で古典的な経済活動の現場は、技術革新による大きな効率改善をみることなく、ただ爆発的に物量が拡大してきた。
特に米国は、日本に比べてインターネット商取引が生活に浸透している。Amazon.comやDellなどの有名どころに加えて、オムツなどの乳幼児用消耗品を扱うDiapers.comや、Gapのオンラインショップ、デザインアパレルのZazzleなど、数多くのビジネスが生み出され、驚異的なペースで成長している。これらのビジネスの成長は、それだけBusiness to Consumerの直接物流が拡大していることを意味し、それだけ物流現場が巨大かつ複雑になっていることを意味する。
しかしながら、物流現場の技術的進歩といえば、規模の拡大、立地の改善、トラックとのドッキングの合理化といった極めて初歩的な改善から始まって、ベルトコンベヤーの導入が近年最大の「革新」だったくらいで、およそ他の産業から100年単位で遅れているといっても過言ではなかった。現在主流となっているベルトコンベヤー式の倉庫も、商品をピックアップするための箱が巨大な倉庫を延々と移動しなければならないという時間効率の問題と、移動や手待ち時間の伴う作業員効率の問題を根本的に改善する術を見つけられていなかった。

Kiva社はこの事実に注目し、倉庫実務の抜本的な変革を考えた。
その際彼らは、以下のような方針を基本に据えた。
・ 労働生産性の最大化を最優先課題とすること。そのために人間の移動距離を最小化すること
・ 出荷指示の到着から出荷までの時間を極小化すること。そのために出荷用の荷箱の移動距離も最小化すること
・ 人間の得意なこと(具体的には商品を「取る」「確認する」「移す」という作業)は人間にやらせて、ロボットにはシンプルな作業をやらせること
・ ハードは極力汎用技術・汎用機械を用い、ソフトウェアの開発に重点を置くこと
・ 倉庫の事後的なレイアウト変更、拡大を容易にすること
こうした考え方から発想されたのが、「動く棚」のコンセプトである。
これはなかなか、言葉では上手く説明しきれない。
まずはこちらのウェブサイトで、デモビデオをご覧いただきたい。

Kiva社が開発した「機械」は、縦長の棚の下にもぐりこんだようなオレンジ色のフォークリフト・ロボット。ただ、これ事態は大してカシコイわけではない。すべてのロボットの進路は一箇所のコンピュータが集中的に計算、制御し、無線LANを通じて各ロボットに指示される。床に等間隔に配置された白い小さなタイルのようなものがバーコードになっていて、各ロボットはバーコードの上に来るたびに次に前後左右どちらに行くべきかを知る。そうしてロボットは倉庫の周囲に配置された作業員のところに徐々に近づき、作業員が商品をロボットが担いだ棚から取ると、また元の位置に戻っていく。ロボットに担がれる可動式の棚は、従来型の倉庫の棚よりも高密度で設置できるため、スペース効率はきわめて高い。一見雑然としているように見えるが、移動頻度の最も高い棚が作業員に最も近い位置、つまり倉庫の周囲に近い位置に配置され、奥、つまり倉庫の中央に行くほど移動頻度の低い棚になっている。商品の需要動向の変化によるこうした棚の配置換えも、このシステムであれば一瞬でできてしまう。
一方作業員は、次々に押し寄せてくるロボットから常に正しい商品を摘み出して、正しい出荷箱に収めなければならない。作業密度が通常の倉庫より飛躍的に高いため、間違いもおきやすい。そのため、次に取るべき棚の商品にライトが当たり、それを収めるべき出荷箱にもライトが当たるようになっている。つまりライトに従って身体を動かしていれば、基本的に間違えることがないという仕組みである。
さらに、倉庫の拡大も極めて簡単にできる。物量にあわせて敷地面積を拡大し、棚とロボットを増やせばいいだけで、拡大による既存の設備の無駄が極めて少ないため、将来の事業規模拡大を見込んで最初から不必要に大きい施設を作る必要がなくなる。

この仕組みは、いわゆるGame Changing Innovationの典型的な例だろう。つまり従来の物流倉庫管理技術の漸次的改善ではなく、根本的に物流倉庫のあり方を変えてしまっている。細かい説明は抜きにしても、前掲のビデオを見ると、純粋に「おおおっ、何か知らんがスゴい!」と思うのではないだろうか。そしてこの仕組みの生み出す価値は、具体的なコストの削減であり、物流処理スピードの改善であり、投資の柔軟性向上であり、すべて「実態(リアル)」である。既にStaples、Diapers.comなど、多くの企業がこの仕組みを導入して、大きな成果を挙げているという。

金融危機に端を発する就職難はMBA学生を直撃しており、今日もDean Schmittleinから励ましのようなメールが全学生に送られていたが、こうした実体経済に目を向ければ、エキサイティングで成長を続ける仕事がまだまだある。それが米国の底力かもしれない。
プレゼンターのStevens氏が最後に言った「カネを動かすより、モノを動かしてみないか!」という言葉に心の琴線を動かされたのは、私だけではないはずである。


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Dean's Innovative Leader Seriesのゲストとして、今回はTime社会長兼CEOのAnn Mooreが来校した。3月の記事でも紹介したLouis Gerstnerと同じく、彼女も残念ながらスローンではなくハーバード・ビジネス・スクールを卒業しているが(1978年)、彼女の夫がMIT卒業生ということで、かろうじて縁はあるらしい。

世界の女性ビジネス・リーダーを代表する存在として紹介される彼女であるが、さすがベテランだけあって自らのユニークなポジションを活かす方法を熟知している様子。今日の講演でも、「これから話すことはママからのアドバイスだと思って聞きなさい」という一言で、会場のトーンをセットした。

CEOの仕事って・・・
①方向性を示すこと(set direction)
②複雑な状況、経営課題をシンプルに捉え、簡潔な答えを示すこと(make complication simple)
③そして正しい企業文化を醸成すること(create right culture)
の3つ。曰く、「そんなに難しい仕事じゃないのよ」

CEOに必要な3つのツール
前述の3つを実行する上で必要なものがまた3つあるという。
①信頼(trust) …曰く、"Trust is a powerful tool. With trust, we can work through disagreement"
②チーム  ...優秀な人材を集めてチームを作ることが成否を決するという。できれば多様な人材を集めることが望ましい。但し、誤解してはいけないのは、「多様な人材」とは性別や人種のことを必ずしもさしているのではなく、問題解決におけるモノの考え方の多様性こそが重要。
③自己批判能力(self awareness)  ...これがないと成長しない。企業と同じく、経営者も持続的に成長しなければならない。

正直に言うと・・・
①"I wouldn't want to be CEO any ealier" ...雑誌が好きで、どうすれば自分が良いと思う雑誌がより多くの人に読まれ、より多くの人が読みたいと思う雑誌とは何かを考え続け、新しい雑誌を作り続けてきたら、CEOになっただけ。ただ、(彼女がCEOに就任した)2002年より早くCEOになっていたら、CEOの仕事の何たるかをみて学ぶ機会も十分にもてなかったし、前述の3つのツールを十分に養うこともできなかっただろうから、そういう意味では結果的にちょうど良いタイミングだった。早くステップアップすることばかりに焦らず、本当にやりたいことが何かを考えるべき("Forget clock. Follow your compass instead")。
②"It's just a time management challenge"  ...とにかく、時間がない。恐ろしい数のe-mailが舞い込み、電話が入り、ミーティングがびっしり詰まっている。そんな中で本当に大切なものを見極めて時間を有効に配分すること、そして忙殺される環境から時々意識的に身を離して冷静に考えることがカギ。パーティーの最中に、バルコニーで頭を冷やすのと同じ。バルコニーに出る勇気が大切。

そして・・・
自分に忠告・反論してくれる人を大切にすること。
曰く、"Babies learn from repetition. Adults learn from feedback"。
そして曰く、"If you have 10 people around you and one tells you a truth, fire the other nine!"。

年寄りの昔話は最小限に抑え、聴衆を考えてそのレベルと関心に合ったアドバイスに話の内容を絞り込む。
講演のあり方にもProfessionalismを感じさせられた。




楽天創業者・社長の三木谷浩史氏がボストンにいらっしゃって、スローン、HBSの日本人学生をディナーに招待してくださる、というので、参加してきた。
三木谷氏には、3年ほど前に東京で行われたHBS関連のイベントでお会いする機会があったが、その際は落ち着いてお話を伺う感じでもなかった。一方で今夜は、学生8-9人に対して三木谷氏をはじめ楽天関係者が1-2人、というテーブル構成で、比較的じっくりとお話を伺うことができたと思っている。
こういう機会を得られるのも、有名ビジネススクールの役得であり、またボストンの地の利である。
まとまったスピーチではなく、学生の質問に三木谷氏が答える、というかたちであるから、個々の学生の関心事が違うこともあり氏の考え方に網羅的に触れるというふうにはなかなかなりにくかったが、後になって俯瞰してみると、彼の経営に対する考え方や、(僭越な言い方がだが)限界を垣間見ることができたように思う。

以下、楽天の社是に沿って、振り返ってみたい。

1.常に改善、常に前進
三木谷氏が旧興銀を退職して独立してからの「歴史」を振り返って抱く疑問の一つに、この人物はいつの段階で現在の楽天グループの姿を構想し、そこを目指して行動を開始したのだろうか、という点があった。彼の事業展開の歴史は、ざっくり言うと、
①興銀退職後コンサルティング会社設立⇒ ②Eコマースのインフラ(楽天市場)創設、会員拡大⇒ ③楽天市場を核とした関連事業買収
というところであるが、今夜のお話から察するに、どうも①の段階では「インターネット」というキーワードしか氏の頭にはなく、それが②に具現化した後も現在のようなコングロマリットの姿は最近まで描けていなかったようである。むしろ、②を事業としてモノにするために心血を注ぎ、③の段階ではその時々に遭遇したオプションを是々非々で評価して買収していった結果、ある程度の複合事業体に成長し、最終版で欠けているピースを補足した、というのが実態なのだと思われる。これをして、ビジョンがない、と批判してしまえばそれまでだが、ビジョンを「インターネットを通じたB to B to Cのサービス事業で日本の頂点に立つ」と緩く定義してしまえば、その中で一貫した行動をとっているともいえるし、なによりも社是の一番目にある「常に改善、常に前進」という漸次主義に非常に即した事業展開の系譜といえるのではないだろうか。

一方で限界とも感じられたのは、「常に改善、常に前進」の中身である。改善する対象があくまでもサービスであって、物理的な付加価値の創造でないために、持続的な競争優位性、あるいは他社に対する圧倒的な参入障壁を構築しにくい。例えばインターネット書店のAmazon.comの場合は、同じインターネット・ビジネスでありながらも、在庫管理や物流といった流通業の本質の部分で革新を起し、他社の追随を許さない規模と技術力、情報力を有しているが、楽天に果たしてこうしたものがあるのか、最後まで疑問が残った。

2.Professionalismの徹底
氏の事業に対する考え方は、極めてシンプルである。つまり、投資のリスクがどの程度か、投資に見合うリターンが見込めるか、その点を極力客観的に捉えようとされている。
同時に、氏は「儲かるかどうかの最初の判断は得てして直感」ともおっしゃっていたが、ここで怠惰にならず、もう一度頭を働かせて、それがなぜ儲かるのかを論理的に再構築する。これを彼は「右脳を左脳に落とし込むプロセス」と表現されていたが、これはプロの経営者にとって極めて重要な姿勢であり、行動原則ではないかと感じた。

3.仮説→実行→検証→仕組化
これは一つ目に挙げたグループ発展の系譜ともかぶる。つまり、楽天グループ発展の歴史は、まさにこのサイクルの繰り返しだということである。
ここで注目したいのは、最後の「仕組化」という部分である。
今夜の氏のお話を聞いていても切実に感じさせられるのは、彼自身の時間というのがグループにとっての最も貴重な経営資源であり、これをどう有効に使うかが生命線であるということであるが、氏のやり方は事業の黎明期、または低迷期に集中的に関与し、儲かるカタチ、パターンを構築して、できるだけ早く自分の手から離す、ということのようであった。つまり、いかに勝ちパターンを見つけ、これを「仕組化」することで彼自身の手を離れても回るかたちにするかが、有限な彼の時間の投資リターンを最大化する鍵だということであり、これは極めて理にかなっていると思われた。例えば楽天球団設立の際も、設立前後の3ヶ月間は三木谷氏自身が直接陣頭指揮をとってプロセスを進めていったが、その後はほとんど運営にタッチしていない、という。

しかしながら、ここでも重要な限界が感じられた。
それは、一言でいえば、彼自身の仕事が仕組化されていない、ということである。
何らかの経営上の問題が生じたときには、常に三木谷氏が火消しに回る。
グループ全体の発展のための次の一手も、三木谷氏自身が決める。
それはある意味でCEOとして理想の姿でもあるが、一方で三木谷氏亡き後、楽天というグループが本当に立ち行くのだろうか、という疑問を強く感じてしまう。
会社の意思決定、そして後継者育成のプロセスを「仕組化」することが急務ではなかろうか。

4.顧客満足の最大化
使い古されたような標語であるが、これを少し広義に解釈すると、今夜の三木谷氏のお話のいくつかは、ここに集約されるように感じた。
まず、顧客=楽天市場会員と捉えたときには、会員への網羅的かつ上質なサービスの提供ということであろうが、会社の視点に立てば、これは会員あたり収益の最大化、ということになる。具体的には、楽天市場の会員を軸にした旅行予約、証券取引など関連サービスの提供とそれによる需要の取り込みである。
また、顧客=パートナーと捉えれば、「頼まれたら極力断らない」という彼の姿勢を見ることができる。これがパートナー各社の満足の最大化となり、ひいては彼らの事業全体の信用力向上にも繋がる。
最後に、顧客=従業員、という視点。品川にある楽天本社で、社員食堂で提供される食事を夕食を除いてすべて無料にした、とか、4,000人の全社員から当該月に生まれた人を毎月招待して社長のポケットマネーでバースデーパーティーを開く、とかいうのは象徴的な例であるが、給与面でもソフトバンクやサイバーエージェントなどの同世代ネット企業に比べて高めに設定しているという。ハングリー精神、起業家精神のある社員を求めつつも、「飴」でもって人材をひきつける・繋ぎとめる、という配慮も忘れていないようである。

5.スピード!!スピード!!スピード!!
社是の中でも最も有名な一節ではないだろうか。
氏曰く、「我々は製造ラインを持たないサービス会社。これのいいところは、思いついたらすぐにインプリ(実行)できること」と語っていたが、これはチャンスでもあり、制約でもある。つまり、すぐに実行できるということは、誰でもできるということであり、従ってすぐに実行しないと商機を逸してしまう、ということだ。このITサービス事業の本質を彼は痛いほどわかっているからこそ、スピード!!と声高に言い続けるのだろう。
また彼自身がこれを率先垂範して実行していることも、この社是を文化として組織に定着させることに大きく寄与している。この日の会食ですら、渡米途中の飛行機の中で三木谷氏が「そういえば今回の訪米中、学生とメシ食う機会ってないんだっけ?」と思い立ち、そこからボストンの駐在員に電話で指示をして、36時間後には20数名のビジネススクール学生を集めた会食の場がもたれているわけだから、普段の仕事の仕方も推して知るべし、であろう。
ただこれも、三木谷浩史なき後にどれだけ持続しうる文化なのかは、定かではない。会食には、三木谷氏以外に同社の幹部クラスが3-4名出席されていたが、皆コワい先生の顔色をうかがう生徒のように見えた。コワい先生がいなくなったとき、会社がどうなるのか…。

かつてのホンダやソニーがそうであったように、「ウチの社風は『社長』です」という会社は少なくないし、創業間もない会社を大きく飛躍させるにはそうしたカリスマ的な社長は大きな武器になるだろう。しかし、90年代以降に現れた「新興大企業」をみるに、創業者社長への依存体質から抜けきれていない会社が目立つように思う。ユニクロしかり、ソフトバンクしかり、ワタミしかり、そして楽天もそうではないか。そうした仮説が、今夜の会食を通じてより確認されたように思えた。

会社の文化を個人の力から組織の力に仕組化して競争力に変える(例えばトヨタのように)、というのは至難であると、改めて痛感させられた。



 ボストン日本人研究者交流会の主催で、東京大学の柳沢幸雄教授をお招きして、「リーダーの条件と育成 〜ボストンでの経験から考える〜」と題した講演が行われた。環境分野の専門家としてハーバード大学と東京大学という日米の最高教育機関で教授を務められたご経験から、米国と日本のリーダーシップのあり方の違いについての考察と、そこに立脚した現在の日本の閉塞的状況への視座を提供された興味深い内容であった。以下、教授が指摘された内容を簡単に振り返っておきたい。

  • 米国のリーダーはアイデアの提示が役割であり、意思決定の主体。日本のリーダーはアイデアの調整が役割であり、一致団結・前例主義が行動規範
    • 米国では、大学教授が研究提案を書いて自分で研究資金を獲得し、それをもとにスタッフを雇って研究室を運営するように、リーダーが自分のアイデアをもとに集団を牽引しなければならない。したがって意思決定やその結果に対して責任をもつのは明らかにリーダーであり、スタッフは執行にのみ責任をもつ
    • 20世紀、ハーバードの総長は5人(つまり平均任期20年)であったのに対し、東大の総長は20人(平均任期5年)もいたという。東大の総長はかつては6年、今では4年という任期が決まっていて、法学部など「基幹学部」の持ち回りになっているので、自動的に短い任期となるのだろうが、長期的視点で改革に取り組まなければならないはずの高等教育機関において、リーダーが名誉職的な位置づけになっていることがわかる
    • 日本の一致団結・前例主義の典型例として紹介されたのが、日露戦争から太平洋戦争に至る歴史。日露戦争勝利という「前例」が、日本軍をして、その戦争に勝利した1905年に制式採用された三八式歩兵銃(サンパチ)を太平洋戦争に至るまで使わしめたという。ゼロ戦を作る技術がありながら、40年前の歩兵銃を後生大事に使い続けるというのは、バブルがはじけ人口が減少をはじめた今も戦後~高度経済成長に至る仕組みを踏襲し続ける日本の姿と重なる
    • 日本でも松下幸之助の「やってみなはれ」に代表されるように、前例を重んじない起業家的な雰囲気がかつてはあったが、高度経済成長で「勝ちパターン」ができてしまうと、それもなかなかみられなくなってきた
  • 米国は事後主義、日本は事前主義
    • 日本は、稟議システムが象徴するように、事前に関係者の了解をとって根回しをすることが最重要であり、その際の説得のために前例が重要視される。稟議でハンコを一個とばすと大変なことになるし、リーダー自身も自分の名前で意思決定することを怖がる。会議の議事録についても、発言から名前を消してくれ、というリクエストがしばしば出る。逆に事前にこうしたプロセスさえ経ておけば、結果に対する責任をリーダー個人に追及されることはあまりない
    • 一方で米国では、前例のないことを意思決定し、それに向かって集団をひっぱるのがリーダーであるので、あくまで結果が重要。いいかえれば、米国的・民主的リーダーシップとは、明確に機能する罷免規定のもとでの「独裁」
  • 米国のスタッフは自前、日本のスタッフは既存
    • 前述の大学研究室の例や、ホワイトハウスのスタッフの例からもわかるように、米国ではリーダーが自分の決定した施策を実行するために最適なスタッフを自分で選ぶ。結果に対して自分が責任を負わなければならないわけだから、自分が安心して執行を任せられる連中をつれてくるのである。従って、リーダーが変われば、多くの場合スタッフも変わる
    • 日本のスタッフ組織は、誰がリーダーであろうが踏襲され、往々にしてリーダーよりも経験が長い。官僚組織がその代表例である。従って誰がリーダーになってもとりあえず動くし、宰相が1年で政権を投げ出すことが続いても、とりあえず国はまわる
  • 米国のスタッフの忠誠心はリーダー(個人)への忠誠心、日本は集団への忠誠心
    • 確かに、日本では「愛社精神」という言葉はあるが、社長のために頑張ろう、というのは、オーナー会社を除いてあまりないように思う
  • 米国は公開の市場メカニズムによる自動的評価、日本は「公平な第三者」による評価
    • 従って米国では、リーダーの評価が市場メカニズムによって自動的に決まる。結果の出なかったリーダーは自動的に新陳代謝される。これを機能させるために、情報公開も徹底している。大学の教授や授業に対する学生の評価は、全世界の誰もが見られるようになっている(例えばスローンの例はこちら
    • 翻って、日本でよく聴く「公平な第三者」による評価とは、まったく意味の分からない言葉。結果に責任を負うつもりがあるのかないのか。評価に必要な社会的費用、間接部門が考慮されていない

以上のような考察から、教授は「前例がないからこそ、自らの判断と責任でやってみよう。それがエリートの責務」という言葉で、講演を締めくくられた。

ありがたい精神の刺激をいただいた。






Japan ClubとVC/PE Clubの共催で、日本に投資するベンチャー・キャピタル(VC)の代表がスピーカーとして招かれた。GlobespanというVCで、講演してくれたのは創業者であり代表のAndy Goldfarb氏。日本のキッコーマンでキャリアをスタートし、日本最大のVC(と呼べるのか多少疑問もあるが)であるジャフコなどを経て、築き上げた日本の大企業とのネットワークなどをもとに、同社を企業。これまで80社近くに投資し、うち30数社から既にエグジットしている。

講演の内容は、"Japanese VC Market: Differences and Opportunities"という表題のとおり、日米のベンチャー投資環境の違い、日本のベンチャー投資のチャンスと難しさを概観するものであった。
以下、それらを簡単にまとめておく。

日本におけるベンチャー投資の固有の機会

  • 株式公開の件数では、過去5年間毎年米国のそれを上回っている(但しここ3年ほどで差は急速に縮小している)
  • 固有の強みをもつ事業領域の存在(ソフトウェア、携帯関係、フラットパネル、省エネ、エンターテイメント、など)
  • 国産VCの非効率性
    • 大会社の子会社が多い
    • 資産規模が小さい
    • マネジャーが自分のカネをほとんど突っ込んでいない
    • 案件探索・評価・投資などが別部門として縦割りになっている
    • 本当にカネが必要なときに投資できていない(日本のVCが投資するのはほとんどの場合、投資先が売上をあげた後。米国では売上すら上げていない会社にもカネが入る) など
  • 投資先は以外に情報開示してくれる


日本におけるベンチャー投資の難しさ

  • 株式公開が全体に小粒(時価総額において米国は平均200億円、日本はその1/5程度)
  • 投資後の経営関与による価値が難しく、従ってどこに投資するかで勝負が決まってしまう
    • 取締役会などの会議体が議論、意思決定の場として機能していない(シャンシャン、と終わるのが美。質問すると怒られたりする)
    • 社長を変える、などの株主としての人事権の行使が受け入れられにくい
  • 社会全体として、失敗に対する許容度が低い。若い人材の間でも、ライブドア事件後、また起業家精神が減退した感がある


全体に、目新しくもないが、的外れなことも言っておらず、さすがに日本に対する造詣の深さが伺われた。
話を伺っての私の印象・考えたことは以下の3点。

  • 米国の投資家にとって、日本はまだまだエキゾチックで謎の多い市場。同氏および同社は、言葉と人脈のチカラでそこに分け入り、先行者、ニッチとしての超過利潤を得ているが、そこに志はあるのか。日本人同級生のKT君が、「日本への投資を通じて御社の達成したいゴールは何ですか」と質問したのに対して、答えは結局のところ「投資家への利益還元」以外になかった。ソニーが設立趣意書に「日本再建」を掲げて邁進したような「志」は、そこにない
  • 相変わらず指摘される日本人の起業家精神の乏しさ。わかっちゃいるけどやめられない。先天的な問題、民族性の問題ではないと信じたいが、ここまで変われないと、そういう気持ちにもなる
  • 同氏は恐らくユダヤ人。ビジネススクールにユダヤ人は多い。スローンにも多いし、HBSはもっと多いようである。そして彼らは金融・投資にめっぽう強い。このまま欧米経済のように、日本経済もユダヤ人に美味しいところをもっていかれてしまうのか


何度か書いているように、自分自身に何か事業を始めて一山当てたい、という野心や情熱が乏しいので、あまり偉そうなことをいえないのだが、やはり上記のようなことを考え、また再確認させられたときには、寂しさを覚える。
自分は、そこに何か一石を投じられるのだろうか・・・



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Shintaro
性別:
男性
職業:
経営コンサルタント
趣味:
旅行、ジャズ鑑賞
自己紹介:
世の中を素直に見ることが苦手な関西人。
MITスローン校でのMBA、プライベート・エクイティでのインターン、アパレル会社SloanGearの経営、そして米国での生活から、何を感じ、何を学ぶのかー。

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