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「 Rakuten dinner ...楽天・三木谷社長との会食 」
楽天創業者・社長の三木谷浩史氏がボストンにいらっしゃって、スローン、HBSの日本人学生をディナーに招待してくださる、というので、参加してきた。
三木谷氏には、3年ほど前に東京で行われたHBS関連のイベントでお会いする機会があったが、その際は落ち着いてお話を伺う感じでもなかった。一方で今夜は、学生8-9人に対して三木谷氏をはじめ楽天関係者が1-2人、というテーブル構成で、比較的じっくりとお話を伺うことができたと思っている。
こういう機会を得られるのも、有名ビジネススクールの役得であり、またボストンの地の利である。
まとまったスピーチではなく、学生の質問に三木谷氏が答える、というかたちであるから、個々の学生の関心事が違うこともあり氏の考え方に網羅的に触れるというふうにはなかなかなりにくかったが、後になって俯瞰してみると、彼の経営に対する考え方や、(僭越な言い方がだが)限界を垣間見ることができたように思う。

以下、楽天の社是に沿って、振り返ってみたい。

1.常に改善、常に前進
三木谷氏が旧興銀を退職して独立してからの「歴史」を振り返って抱く疑問の一つに、この人物はいつの段階で現在の楽天グループの姿を構想し、そこを目指して行動を開始したのだろうか、という点があった。彼の事業展開の歴史は、ざっくり言うと、
①興銀退職後コンサルティング会社設立⇒ ②Eコマースのインフラ(楽天市場)創設、会員拡大⇒ ③楽天市場を核とした関連事業買収
というところであるが、今夜のお話から察するに、どうも①の段階では「インターネット」というキーワードしか氏の頭にはなく、それが②に具現化した後も現在のようなコングロマリットの姿は最近まで描けていなかったようである。むしろ、②を事業としてモノにするために心血を注ぎ、③の段階ではその時々に遭遇したオプションを是々非々で評価して買収していった結果、ある程度の複合事業体に成長し、最終版で欠けているピースを補足した、というのが実態なのだと思われる。これをして、ビジョンがない、と批判してしまえばそれまでだが、ビジョンを「インターネットを通じたB to B to Cのサービス事業で日本の頂点に立つ」と緩く定義してしまえば、その中で一貫した行動をとっているともいえるし、なによりも社是の一番目にある「常に改善、常に前進」という漸次主義に非常に即した事業展開の系譜といえるのではないだろうか。

一方で限界とも感じられたのは、「常に改善、常に前進」の中身である。改善する対象があくまでもサービスであって、物理的な付加価値の創造でないために、持続的な競争優位性、あるいは他社に対する圧倒的な参入障壁を構築しにくい。例えばインターネット書店のAmazon.comの場合は、同じインターネット・ビジネスでありながらも、在庫管理や物流といった流通業の本質の部分で革新を起し、他社の追随を許さない規模と技術力、情報力を有しているが、楽天に果たしてこうしたものがあるのか、最後まで疑問が残った。

2.Professionalismの徹底
氏の事業に対する考え方は、極めてシンプルである。つまり、投資のリスクがどの程度か、投資に見合うリターンが見込めるか、その点を極力客観的に捉えようとされている。
同時に、氏は「儲かるかどうかの最初の判断は得てして直感」ともおっしゃっていたが、ここで怠惰にならず、もう一度頭を働かせて、それがなぜ儲かるのかを論理的に再構築する。これを彼は「右脳を左脳に落とし込むプロセス」と表現されていたが、これはプロの経営者にとって極めて重要な姿勢であり、行動原則ではないかと感じた。

3.仮説→実行→検証→仕組化
これは一つ目に挙げたグループ発展の系譜ともかぶる。つまり、楽天グループ発展の歴史は、まさにこのサイクルの繰り返しだということである。
ここで注目したいのは、最後の「仕組化」という部分である。
今夜の氏のお話を聞いていても切実に感じさせられるのは、彼自身の時間というのがグループにとっての最も貴重な経営資源であり、これをどう有効に使うかが生命線であるということであるが、氏のやり方は事業の黎明期、または低迷期に集中的に関与し、儲かるカタチ、パターンを構築して、できるだけ早く自分の手から離す、ということのようであった。つまり、いかに勝ちパターンを見つけ、これを「仕組化」することで彼自身の手を離れても回るかたちにするかが、有限な彼の時間の投資リターンを最大化する鍵だということであり、これは極めて理にかなっていると思われた。例えば楽天球団設立の際も、設立前後の3ヶ月間は三木谷氏自身が直接陣頭指揮をとってプロセスを進めていったが、その後はほとんど運営にタッチしていない、という。

しかしながら、ここでも重要な限界が感じられた。
それは、一言でいえば、彼自身の仕事が仕組化されていない、ということである。
何らかの経営上の問題が生じたときには、常に三木谷氏が火消しに回る。
グループ全体の発展のための次の一手も、三木谷氏自身が決める。
それはある意味でCEOとして理想の姿でもあるが、一方で三木谷氏亡き後、楽天というグループが本当に立ち行くのだろうか、という疑問を強く感じてしまう。
会社の意思決定、そして後継者育成のプロセスを「仕組化」することが急務ではなかろうか。

4.顧客満足の最大化
使い古されたような標語であるが、これを少し広義に解釈すると、今夜の三木谷氏のお話のいくつかは、ここに集約されるように感じた。
まず、顧客=楽天市場会員と捉えたときには、会員への網羅的かつ上質なサービスの提供ということであろうが、会社の視点に立てば、これは会員あたり収益の最大化、ということになる。具体的には、楽天市場の会員を軸にした旅行予約、証券取引など関連サービスの提供とそれによる需要の取り込みである。
また、顧客=パートナーと捉えれば、「頼まれたら極力断らない」という彼の姿勢を見ることができる。これがパートナー各社の満足の最大化となり、ひいては彼らの事業全体の信用力向上にも繋がる。
最後に、顧客=従業員、という視点。品川にある楽天本社で、社員食堂で提供される食事を夕食を除いてすべて無料にした、とか、4,000人の全社員から当該月に生まれた人を毎月招待して社長のポケットマネーでバースデーパーティーを開く、とかいうのは象徴的な例であるが、給与面でもソフトバンクやサイバーエージェントなどの同世代ネット企業に比べて高めに設定しているという。ハングリー精神、起業家精神のある社員を求めつつも、「飴」でもって人材をひきつける・繋ぎとめる、という配慮も忘れていないようである。

5.スピード!!スピード!!スピード!!
社是の中でも最も有名な一節ではないだろうか。
氏曰く、「我々は製造ラインを持たないサービス会社。これのいいところは、思いついたらすぐにインプリ(実行)できること」と語っていたが、これはチャンスでもあり、制約でもある。つまり、すぐに実行できるということは、誰でもできるということであり、従ってすぐに実行しないと商機を逸してしまう、ということだ。このITサービス事業の本質を彼は痛いほどわかっているからこそ、スピード!!と声高に言い続けるのだろう。
また彼自身がこれを率先垂範して実行していることも、この社是を文化として組織に定着させることに大きく寄与している。この日の会食ですら、渡米途中の飛行機の中で三木谷氏が「そういえば今回の訪米中、学生とメシ食う機会ってないんだっけ?」と思い立ち、そこからボストンの駐在員に電話で指示をして、36時間後には20数名のビジネススクール学生を集めた会食の場がもたれているわけだから、普段の仕事の仕方も推して知るべし、であろう。
ただこれも、三木谷浩史なき後にどれだけ持続しうる文化なのかは、定かではない。会食には、三木谷氏以外に同社の幹部クラスが3-4名出席されていたが、皆コワい先生の顔色をうかがう生徒のように見えた。コワい先生がいなくなったとき、会社がどうなるのか…。

かつてのホンダやソニーがそうであったように、「ウチの社風は『社長』です」という会社は少なくないし、創業間もない会社を大きく飛躍させるにはそうしたカリスマ的な社長は大きな武器になるだろう。しかし、90年代以降に現れた「新興大企業」をみるに、創業者社長への依存体質から抜けきれていない会社が目立つように思う。ユニクロしかり、ソフトバンクしかり、ワタミしかり、そして楽天もそうではないか。そうした仮説が、今夜の会食を通じてより確認されたように思えた。

会社の文化を個人の力から組織の力に仕組化して競争力に変える(例えばトヨタのように)、というのは至難であると、改めて痛感させられた。

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無題
by NONAME 2008.12.16 Tue 15:30 EDIT
ウンチクはもう結構。もっと経営学でなく経営者の本質を掴む努力を。人を利用ではなく、感銘を与え動かすことだぜ;カーネギーしかり。
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経営コンサルタント
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世の中を素直に見ることが苦手な関西人。
MITスローン校でのMBA、プライベート・エクイティでのインターン、アパレル会社SloanGearの経営、そして米国での生活から、何を感じ、何を学ぶのかー。

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