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「 Engineering Expert …日本製造業への想い 」
夜、時間が出来たので、お世話になっていた技術コンサルタント会社に挨拶に行った。
メーカーの原価低減や、研究開発組織の改革など、コンサルティングをする中で、技術的知見がないと踏み込んだ提案や実行支援ができない場合がある。そんなときにアドバイザーあるいはコンサルタントとしてプロジェクトに参画いただいていたのがこの会社、特に社長のOさんとMさん。お二人を含むソニー出身のエンジニアの方々が中心となって立ち上げた同社、売上の中心は受託設計とエンジニアの派遣であるが、技術的知見を要する課題についての彼らの洞察力は、我々の心強い味方であった。仕事が大好きでハードワークを辞さない皆さんなので、挨拶だけして失礼するつもりであったが、Mさんとは、せっかくなので一杯、ということになった。

ビールのグラスを合わせ、しばらく昔話をしたあと、話題は日本の製造業についての憂いへと広がっていった。
我々に協力するかたちでコンサルティングプロジェクトをいくつか手がけるうちに、そうした仕事についての自信を深めていったMさんだが、一方でソニーの中堅エンジニアから飛び出した彼がいろいろなメーカーで価値向上に貢献できるという事実は、日本製造業の軟弱化の証左とも映るらしい。

まず指摘されたのは、ベテランの知恵が十分に蓄積・活用・伝承されていないということ。「五月蝿いオヤジがいなくなった」とはよく聞く話ではあるが、それは語るべき知識や技能をもったオヤジがいなくなったのではなく、オヤジが語らなくなった、あるいは周りがそれを聞かなくなっただけなのではないか、と彼はみる。現に、彼の会社では、製造業の各方面で一家言もつ定年オヤジを集めて、エキスパート部隊にしている。「オジサンズ11」などと呼ばれる彼らは、相談すると「それはさぁ、」と生き生きと語りだすし、分析してほしい製品や図面を渡すと、目を輝かせて寝食を忘れるほど調査に没頭するらしい。技術が好きでしようがなく、その好奇心や自分の腕を何かにぶつけたくてうずうずしているのだろう。Mさんたちは、本来産業界の中で自律的に行われるべきそうしたオヤジたちの知恵の活用を、外部エキスパートとして触媒しているかたちになる。

なぜそうしたベテランの知恵が活かされなくなったのか。

この答えの一つとして、MさんはIT化をあげた。
ソニーで三次元CADなどのITツールをいち早く導入した経験をもつ彼らがいうのは一見自己矛盾にも聞こえるが、もちろん彼はシステムを導入すること自体を否定しているのではない。彼が問題視しているのは、SAPなどの外部ベンダーが作ったパッケージソフトの安易な導入と、それにあわせた仕事のあり方だという。
企業の基幹システムにしても、設計ツールにしても、かつては各メーカーが自前で開発していた。そこにベテランの知恵をそこに結晶させることで、暗示的な知恵の明示化につながり、メーカーごとに知恵を振り絞って良いシステムを作る過程も、教育の場になったという。しかしそうした自前システムを半ば否定するかたちで安易なパッケージソフトの導入がなされると、とたんにエンジニアが思考停止してしまった。自分で考える、知恵を集める、という作業が吹き飛び、むしろパッケージソフトに与えられた枠の中で考えるという事態にまで至っている場合も少なくないらしい。

また、いわゆる「トヨタ生産方式」に代表されるような、生産システムの「教科書」が表面的に枠組みとして絶対視されたことも問題だという。例えばトヨタ生産方式の教えの一つは、ムダの排除にある。ムダの代表例は在庫である。しかし、工場の中の在庫をなくす、この一点が絶対的な自己目的となると、そのために流通側に在庫を膨張させたり、販売機会を逸したりする。トヨタ自身は、極論すれば「売れ残るくらいなら品切れになる方が良い(トヨタ井川専務)」という信念があるので良いのかもしれないが、例えば需要の波の大きい業界では、一時の特需を逃すと、致命的なダメージを被ることになる。そうした、自身の会社や業界の特性を踏まえた定説の検証や修正が、禁忌とされて長年放置されている例が多いという。NPS研究会、という異業種交流会があるが、「ナンバーワンの「経営効率」を目指す世界で唯一の一業種一社の製造業集団」をうたっている同会の会員企業に経営上の問題を抱える企業が少なくないのも、そうしたある定説の絶対視から来るのかもしれない。

同時に、NPS研究会の会員企業に問題を抱える先が多い、ということからは、いわゆる「業界トップ」企業の慢心ということも指摘された。慢心、と言われると顔を真っ赤にして怒る経営者が多いだろうが、競合他社製品の研究の怠り、サプライヤーの固定化、営業の不活性化、談合体質化など、業界トップに立つということは、あらゆる部分にわたって企業を弛緩させるリスクをもっている。

こうしてみてくると、共通していえるのは、好奇心だとか、「技を磨く」意識だとか、そうした現状を変えようという継続的な力の弱体化あるいは喪失が、企業や産業の力を弱めているといえるだろう。サラリーマン病、といってもいいかもしれない。結局これは、かなり日本に普遍的で、深刻な問題のようだ。

教育現場に目を移すと、さらに問題は深刻にみえる。Mさんには小学校5年生になる娘さんがいらっしゃるが、彼女の国語の宿題をみると、主語や目的語が省略された文学的文章の抜粋があって、「作者の言いたいことをまとめなさい」という課題が与えられていたそうだ。何十年と変わらない、日本の国語教育である。これは、とうてい論理的ではない日本語という語学に不可欠な、いわゆる行間を読む力、非明示的なものを汲み取る力を養うトレーニングであり、日本の企業社会で生きていくうえでも不可欠な力の養成である。しかし、最近は、答えがすぐにインターネットで検索できてしまう。これを「コピペ」して提出すれば、○がつく。少なくとも、×にはならない。こうして、ロジカルでもないし行間・空気も読めない、要するにコミュニケーションのできない日本人が生産されている。知恵の伝承、が再び定着するどころか、ますます減退していく気配が色濃くする。

ターゲット会社のコストを下げられる、経営改善の余地がある、というのは、PEファームにとっては「朗報」である。それだけ価値向上ができるからだ。
独力ではできない決断や、過去のしがらみの打破も、上記のような問題を解消する一助にはなるだろう。しかし、問題がもっと根深い、歴史的な変化のようなものであると思ったとき、何か他にもっと本質的な取組をしなければならないのではないか、という焦りのような気持ちにもなる。当面は答えもないので、具体的に自分の軌道を変えるところまでは至らないのだが…。
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経営コンサルタント
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世の中を素直に見ることが苦手な関西人。
MITスローン校でのMBA、プライベート・エクイティでのインターン、アパレル会社SloanGearの経営、そして米国での生活から、何を感じ、何を学ぶのかー。

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