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「 End of Internship …10週間のインターンを終えて 」
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6月9日から10週間に及んだPEファームでのインターンが本日終わった。明朝には早速東京を離れ、ボストンに戻る。

前半のボストンでのインターンで学んだことは、7月12日の記事で総括したとおりである。
また、東京で感じたこと、学んだことについても、8月8日の記事8月11日の記事で触れてきたが、改めて振り返ると、前半と後半で経験したPE投資のあり方は、想像以上に違いが大きかった。もちろん、お世話になっていたのはグローバル・ファームであるし、ゆえにその活動を貫く価値観や文化、投資や分析のアプローチといったものは共通しているのだが、如何せん市場が大きく違った。
PE投資はそのプロセスに沿って大きく以下の4段階に分けられる
① 案件創出
② 投資(含む投資検討)
③ 投資後の企業価値向上
④ 売却
このすべてのステップにおいて、日米の投資環境にはさまざまなレベルの差があった。

まず①であるが、米国ではこれは一義的にはPEファームの仕事ではなく、投資銀行の仕事である。投資銀行が、PE投資を受け入れる価値のありそうな会社を見繕い、会社側マネジメントに働きかけ、提案をまとめてPEファームに売り込んでくる。それで投資が行われれば彼らにはフィーが落ちるわけで、立派な提案型営業である。また会社の経営者や大株主もPE投資の意義をある程度理解していて、会社の業績が好調で株価も高い時期に、自ら積極的に売りに出たりする。私がボストンの事務所でお世話になった5週間の間に携わった3つの案件は、すべて投資銀行経由での持ち込み案件であった。
一方で日本では、こうした投資銀行経由で持ち込まれる案件は極めて少ない。案件の絶対量が不足しているのか、投資銀行の力量がイマイチなのか、投資銀行のPE部門が掻っ攫っているのか、私がお世話になっていたファームに案件が来ないだけなのか、原因は定かではないが、国内企業とのパイプは圧倒的に国内銀行に握られていて、それら銀行が投資銀行業務の強化をうたう一方でPE投資の斡旋など口が裂けてもしない、というところがボトルネックではないかと思われる。また、その根底にある問題でもあり、案件の絶対量の不足にも繋がっているのが、企業側に根強く存在するPE投資への不信感だろう。ハゲタカファンドといわれた一部のバイアウトファンドの所業や、村上ファンドの存在などが過去クローズアップされたため、止むを得ない部分もあるかもしれないが、そもそも株式持合いや、あるいは相撲のタニマチに代表されるように、「金は出すが口は出さない」のが良い投資家とされている風土そのものが、資本主義として幼稚なのではないかと思ってしまう。
結果として、この部分でPEファームが主体的に果たさなければいけない役割は大きい。つまり自ら投資対象足りうる会社を探し、伝手を探して会社に提案し、投資まで持っていく、という努力を相当しなければ食っていけない(わずかにある持込案件にはほぼすべてのファンドが殺到するため、価格競争になってとても割りにあわない)。見方を変えればこれは日本におけるPE投資の面白いところでもある。特に、上場規準の甘さから未だにオーナー系企業が多く上場している日本の状況を鑑みると、そうしたオーナー経営者と「握る」ことができれば、独占的な投資に持ち込むチャンスも少なくはない。

次に②であるが、この側面についてもいろいろな点で日本は米国に比べて難しい。まず、投資の妥当性を診断するデューデリジェンスの過程において、投資候補先企業から必要なデータが出てこない。当該企業の非協力的な姿勢が原因である場合もあるが、データそのものが存在しない場合も多いようである。また、デューデリジェンスやその後のファイナンス・ストラクチャーを検討する上で頼みうるプロフェッショナルが少ないのも辛い。特に企業買収を扱えるような大手の弁護士事務所は国内に3社しかなく、オークションになった場合などは、出遅れると弁護士事務所の手当てがボトルネックとなって参加できない、という事態もよく起こるらしい。

③についても、日本の方が手間がかかる。最大の原因は、取締役会が協議・意思決定機関として機能していないことにあるだろう。
米国における投資先企業のモニタリング、意思決定への関与は、取締役会に出ていれば最低限の任を果たすことができるようである。もちろん根回しその他の行為は日本のように行われるが、取締役会の議事次第には、経営に関する重要な議題が含まれているし、そこは議論の場として機能していることが多い。要するに、コーポレート・ガバナンスが機能している会社が多い、ということであるし、機能していない会社に投資した場合も、それが機能するように改善することはそれほど難しくない。
しかしながら、日本では、取締役会(あるいはそれに類する経営上の最高意思決定会議)は、株主総会もそうだが、「シャンシャン」が美しいとされるし、基本である。取締役会で、上程者に対して「鋭い質問」でもしようものなら、逆にアホ扱いされるだろう。もちろん、組織はどこかで意思決定しなければならないので、実際はこれに変わる会議なり、意思決定のグループなりが存在するのだが、これがあまりにも非公式であったり、組織に散在していたりして、外部からはなかなかわかりにくいし、わかったところでそれを解散させたとしても、これはもうハードの問題ではなく企業文化の問題なので、本質的にはなかなか変わりにくい。かつてコンサルタントとして関わったある企業でも、取締役会や経営会議と呼ばれる会議がまったく機能しておらず、よくよく調べてみると、幹部の朝のコーヒータイムのような非公式な集まりで、書類もないまま重要事項が雑談のように語られ、異論が出なければ「了承」とされていた。この手の会合は、もともと公式に存在しているものでもないので、廃止しにくいし、廃止してもまた復活する。こうした組織体の中で、何が起きているかを理解し、意思決定に影響を及ぼして、企業を「正しい」方向に向けていくというのは、非常に手間がかかる。
もっとも、悪い話ばかりではなく、日本の組織は情報収集や意思決定に手間がかかる反面、経営判断が下るとそれを執行するための現場の力は強いことが多いので、マネジメントの手間をかければ大きな見返りを期待することもできるのではないかと感じている。この点、つまり経営上の意思決定を組織の行動にかえ、結果につなげて行くという作業は、例えば米国や中国の組織では難しい。

④の部分は、単にPE投資の歴史の差かもしれないが、日本のPE投資はこれまでの例を見る限り出口が限られている。理論的には、PE投資の出口は(1)株式公開、(2)事業会社への売却、(3)他の投資家(ファンド)への売却、という3通りがあるが、日本ではまだ(1)のパターンは現れていないはずである(新生銀行は形式的にはこの分類に含められるが、問題が多いのでここではカウントしない)。数的に多く、経済的なリターンももたらしているのは、(3)ではないか。一方で米国では、この3通りともに存在しているし、検討の価値がある。結局のところ、PE投資は出口があってナンボのものであるから、出口のバリエーションが多いというのは、それだけで良いことである。

このようにみてくると、日本の投資環境の方が、その投資の歴史の浅さと企業文化・社会風土の特殊性から、米国に比べてあらゆる面で難しそうである。
しかしながら、世界第二の経済大国で、これだけ再編機運が高まっており、なおかつPE投資の浸透度が低いとなると、マクロ的にはチャンスがあるのは間違いだろう。つまり、難しい中で、市場を啓蒙しつついかに時勢を捕まえて成功するか、という、チャレンジングな環境であるらしい。もっとも、PE投資の基礎を学ぶという点では、あまり良い市場ではないだろう。そこはボストンなり、米国の事務所で働いた方が、短い期間でみっちりと習熟できるように思う。

結局のところ、どちらがいいか、またこの業界自体に首を突っ込むべきかは、人による、ということか。
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職業:
経営コンサルタント
趣味:
旅行、ジャズ鑑賞
自己紹介:
世の中を素直に見ることが苦手な関西人。
MITスローン校でのMBA、プライベート・エクイティでのインターン、アパレル会社SloanGearの経営、そして米国での生活から、何を感じ、何を学ぶのかー。

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