「 Summer Internship @PE ...新しい世界 」
イタリア旅行とSloanGearのセールスを終え、6月9日から、ボストンに本社を置くプライベート・エクイティ・ファーム(PE)でのサマーインターンが始まっている(PEとは何かについてはこちらもご参照)。
お世話になっているPEファームは、世界で投資プロフェッショナルが200人ほど活躍する、同業界としては例外的なほど大所帯なファームだが、その今年のサマーインターンは総勢9名。私以外では、ここボストンで働く学生(米国人)が4名、ロンドンが2名、香港が1名、日本で既に投資した会社の価値向上にあたる学生が1名、という構成である。私を含めた日本人2名以外は、すべてHBS(ハーバード・ビジネス・スクール)の学生。なかなか狭い世界である。
受け入れ体制はしっかりしていて、全員にボストンでトレーニングを3日半みっちりとやってくれた上で、各自がそれぞれのオフィス、それぞれのチームへと散っていく。私は、いろいろとわがままを受け入れていただき、ここボストンで5週間、東京で5週間という変則的な形態をとっていただいたので、まずはボストン本社内のあるチームに加わることとなった。
そしてそのインターンが始まってから早くも2週間が過ぎた。全体の2割、そして私のボストンでのインターン期間の4割が過ぎたことになる。毎日やることも多いのだが、いろいろな意味で刺激が多く、考えさせられることも多い。風化してしまわないように、いくつか書き残しておきたい。
人材のレベル
恐ろしいほどにスマートな人々の集団である。大学を出て鉄道会社に就職した私がそこでの4年ほどの経験の後にコンサルティング・ファームに就職した際も、周りのあまりのレベルの高さと自らの力のなさに歴然とし、戦慄さえ覚えたが、それに似た衝撃を受けた。皆、1を聞けば10を知る、といった知的レベルの高さで、隙がない。しかも凄いのは、それにほぼ例外がないこと。よく言われることだが、どんな組織でも、たいがい組織を支える活躍をしているのは全体の2割の人々で、その他の8割は、必ずしも優秀でなかったり、やる気がなかったりするものだが、ここの人材はその優秀さの分布の下限が極めて高いところにあるのか、いわゆるダメな人がいない。
これは本当に凄いことで、実務上もいろいろな「違い」をもたらす。
まずは、人の運用。コンサルティング・ファームと同様、こうした組織では固定された上司-部下の関係というものはなく、投資案件ごとに3-4名から多いときは15名程度のチームが結成されるのだが、このチームの結成が、限りなく「誰が今空いているか」だけで決められるという。つまり「今のファームの中で誰が優秀か、誰がより力を発揮してくれそうか」という点は、皆が優秀であるという前提をおいたときに、あまり意味をなさなくなる、ということ。
あるいは、上司と部下のコミュニケーション。チームが結成されると、シニアなスタッフとジュニアなスタッフの間で上下関係は発生するのだが、各スタッフは上司への報告の際に、何がわかっているか、何を知っているかだけでなく、何がわかっていないか/知らないかについても、明確に伝えることが求められる。ジュニアなスタッフは、自らへの信頼を勝ち取るためにあたかも自分が「すべて」を知っているように振舞う必要はなく、自らがどの程度確信をもっているかを正確に伝えられればOK。シニアなスタッフも、「彼がこれまでの時間では調べられなかったということは、恐らくデータがないのだろう」と、非常に「ものわかり」が良い。もちろん、ジュニアなスタッフは実際にそうした信頼に足る力を持っているし、そうしたシニアスタッフの態度に甘えてサボることもしない。こうしたプロフェッショナルな信頼関係は、上司にとっても部下にとっても、非常にコミュニケーションのコストが下がる。
研ぎ澄まされた内向きの仕事
ここで作る資料の恐らく8割以上は社内向けの説明資料である。
これは、顧客に見せることを主目的として資料を作るコンサルティング・ファームとは、大きく異なる。外向けの資料というのも、銀行向けや投資対象企業向けの資料など一部存在するが、例外的ですらある。
ただ、この「社内」が、前述のようにとんでもなくスマートな人々であるため、猛烈に厳しい視線に晒される。不合理な、あるいは過度に抽象的で次の展開に繋がらないいい加減な指摘は、これまで経験した中では一切ない。またこちらに論理上の矛盾点や詰めの甘さがあると、確実に指摘される。社内における議論の厳しさの理由は、彼らがスマートだからだけではない。既に巨大な額に膨らんだ投資運用資金の過半は、いまだにこのファームのメンバーが出資した資金だからでもある。つまり、超カシコイ人たちが、自分のカネのかかった話に対して、前のめりで突っ込んでくるのだから、厳しいのも当たり前である。資金を出しているのはシニアメンバーだけではなく、額の差はあるが、若手もカネを出している。だから、出来るだけ確証の高い情報と提案をシニアメンバーにもたらし、彼らの経験と知見でできるだけ「正しい」判断をしてもらおうと、自らの知恵と体力を振り絞って投資対象先を分析する。
Get Things Done
仕事への集中力・切り替えも凄い。若手もシニアメンバーも、だらだらと無駄話をしたり、あるいは大して役に立たない分析や調査をだらだらとやったりしない。仕事にかかるときには寝食を忘れて没頭する。ランチは社員用の食堂(味も設備もすばらしい)で仲間と食べることもあるが、それも短時間。夕食は、ほとんど各自のデスクで仕事をしながら貪っている。集中力が切れてきたと思ったら、社内のジムに行って汗を流し、シャワーを浴びてまた仕事に戻る。一方で、仕事が終われば、さっさと帰る。定時というものもないので、仕事がなければ3時頃にでもいなくなってしまう。
ノン・ナンセンスというか、恐ろしいほどに無駄がない。
このあたりは、まだ自分は「旧来型」の日本企業文化の気質が残るのか、ちょっとついていけない気がするときもある。
ステータス
皆、自分の仕事に誇りをもっている。そしてそれを感じさせるような環境になっている。
皆、厳しい選別を勝ち抜いてきたという自負もあるだろう。例えば最もジュニアなアソシエイトという役職についても、大学新卒は採用せず、マッキンゼー、BCG、ベインといったトップコンサルティングファームか、ゴールドマンサックスなどの一部の投資銀行で数年以上の経験を積んだものに絞って年間数百名程度の面接を行い、その中から10名程度を採用する。そうして入った組織のメンバーが皆優秀であることからも、自らのステータスを再確認する。
オフィスがあるのはボストンでも最も賃料が高いビルの一つ。そこの最上階から数フロアを占拠している。眼下にはボストンの街が一望できる。迂闊にも、ちょっとエラくなった気になる。
デスクは若手から全員個室である。我々インターンの学生にも、名前のプレートが掲げられた4畳半ほどの個室が与えられる。それも無機質な安物のパーテーションで区切られた部屋ではなく、木をふんだんに使った落ち着いた部屋である。デスクも、かつて働いていた日本の事業会社の取締役の机より広い。立派過ぎて、未だに、ちょっと落ち着かない。
前述のとおり、社内にはジムも食堂も完備されている。
ライフスタイル
まだそれほど多くの社内の人を知らないが、話を聞いた限りでは、やはり皆仕事は繁忙・閑散の波が激しく、プライベートは少なからずその波の犠牲にならざるを得ない。休暇をとり、旅行を計画していても、すべてキャンセルせざるを得ない場合もあるし、皆それをある程度覚悟している。
しかしながら(あるいは「だからこそ」)、皆それぞれに、余裕があるときには少しでもプライベートを充実させようと努力している。特に家族のいるスタッフは、子供との時間をできるだけとるように腐心しているし、デスクの周りは子供の写真や子供がかいた絵で埋め尽くされている。
一部の投資銀行に見られるような、離婚・再婚の止め処ないサイクルではなく、家族を大切にしようという空気がみられる。
こんなところだろうか。
今のところ、まだ倒れてしまうほどの仕事量ではないし、こうした書き物をする多少の余裕もあるが、これからどれだけ忙しくなるのか、どれだけ知的・肉体的にタフになるのか、ちょっと想像がつかない。
余裕が見つけられれば、また少しずつ、気づいたことをノート代わりにまとめていきたい。
アップデートがなければ、仕事に埋もれていると思ってください。
お世話になっているPEファームは、世界で投資プロフェッショナルが200人ほど活躍する、同業界としては例外的なほど大所帯なファームだが、その今年のサマーインターンは総勢9名。私以外では、ここボストンで働く学生(米国人)が4名、ロンドンが2名、香港が1名、日本で既に投資した会社の価値向上にあたる学生が1名、という構成である。私を含めた日本人2名以外は、すべてHBS(ハーバード・ビジネス・スクール)の学生。なかなか狭い世界である。
受け入れ体制はしっかりしていて、全員にボストンでトレーニングを3日半みっちりとやってくれた上で、各自がそれぞれのオフィス、それぞれのチームへと散っていく。私は、いろいろとわがままを受け入れていただき、ここボストンで5週間、東京で5週間という変則的な形態をとっていただいたので、まずはボストン本社内のあるチームに加わることとなった。
そしてそのインターンが始まってから早くも2週間が過ぎた。全体の2割、そして私のボストンでのインターン期間の4割が過ぎたことになる。毎日やることも多いのだが、いろいろな意味で刺激が多く、考えさせられることも多い。風化してしまわないように、いくつか書き残しておきたい。
人材のレベル
恐ろしいほどにスマートな人々の集団である。大学を出て鉄道会社に就職した私がそこでの4年ほどの経験の後にコンサルティング・ファームに就職した際も、周りのあまりのレベルの高さと自らの力のなさに歴然とし、戦慄さえ覚えたが、それに似た衝撃を受けた。皆、1を聞けば10を知る、といった知的レベルの高さで、隙がない。しかも凄いのは、それにほぼ例外がないこと。よく言われることだが、どんな組織でも、たいがい組織を支える活躍をしているのは全体の2割の人々で、その他の8割は、必ずしも優秀でなかったり、やる気がなかったりするものだが、ここの人材はその優秀さの分布の下限が極めて高いところにあるのか、いわゆるダメな人がいない。
これは本当に凄いことで、実務上もいろいろな「違い」をもたらす。
まずは、人の運用。コンサルティング・ファームと同様、こうした組織では固定された上司-部下の関係というものはなく、投資案件ごとに3-4名から多いときは15名程度のチームが結成されるのだが、このチームの結成が、限りなく「誰が今空いているか」だけで決められるという。つまり「今のファームの中で誰が優秀か、誰がより力を発揮してくれそうか」という点は、皆が優秀であるという前提をおいたときに、あまり意味をなさなくなる、ということ。
あるいは、上司と部下のコミュニケーション。チームが結成されると、シニアなスタッフとジュニアなスタッフの間で上下関係は発生するのだが、各スタッフは上司への報告の際に、何がわかっているか、何を知っているかだけでなく、何がわかっていないか/知らないかについても、明確に伝えることが求められる。ジュニアなスタッフは、自らへの信頼を勝ち取るためにあたかも自分が「すべて」を知っているように振舞う必要はなく、自らがどの程度確信をもっているかを正確に伝えられればOK。シニアなスタッフも、「彼がこれまでの時間では調べられなかったということは、恐らくデータがないのだろう」と、非常に「ものわかり」が良い。もちろん、ジュニアなスタッフは実際にそうした信頼に足る力を持っているし、そうしたシニアスタッフの態度に甘えてサボることもしない。こうしたプロフェッショナルな信頼関係は、上司にとっても部下にとっても、非常にコミュニケーションのコストが下がる。
研ぎ澄まされた内向きの仕事
ここで作る資料の恐らく8割以上は社内向けの説明資料である。
これは、顧客に見せることを主目的として資料を作るコンサルティング・ファームとは、大きく異なる。外向けの資料というのも、銀行向けや投資対象企業向けの資料など一部存在するが、例外的ですらある。
ただ、この「社内」が、前述のようにとんでもなくスマートな人々であるため、猛烈に厳しい視線に晒される。不合理な、あるいは過度に抽象的で次の展開に繋がらないいい加減な指摘は、これまで経験した中では一切ない。またこちらに論理上の矛盾点や詰めの甘さがあると、確実に指摘される。社内における議論の厳しさの理由は、彼らがスマートだからだけではない。既に巨大な額に膨らんだ投資運用資金の過半は、いまだにこのファームのメンバーが出資した資金だからでもある。つまり、超カシコイ人たちが、自分のカネのかかった話に対して、前のめりで突っ込んでくるのだから、厳しいのも当たり前である。資金を出しているのはシニアメンバーだけではなく、額の差はあるが、若手もカネを出している。だから、出来るだけ確証の高い情報と提案をシニアメンバーにもたらし、彼らの経験と知見でできるだけ「正しい」判断をしてもらおうと、自らの知恵と体力を振り絞って投資対象先を分析する。
Get Things Done
仕事への集中力・切り替えも凄い。若手もシニアメンバーも、だらだらと無駄話をしたり、あるいは大して役に立たない分析や調査をだらだらとやったりしない。仕事にかかるときには寝食を忘れて没頭する。ランチは社員用の食堂(味も設備もすばらしい)で仲間と食べることもあるが、それも短時間。夕食は、ほとんど各自のデスクで仕事をしながら貪っている。集中力が切れてきたと思ったら、社内のジムに行って汗を流し、シャワーを浴びてまた仕事に戻る。一方で、仕事が終われば、さっさと帰る。定時というものもないので、仕事がなければ3時頃にでもいなくなってしまう。
ノン・ナンセンスというか、恐ろしいほどに無駄がない。
このあたりは、まだ自分は「旧来型」の日本企業文化の気質が残るのか、ちょっとついていけない気がするときもある。
ステータス
皆、自分の仕事に誇りをもっている。そしてそれを感じさせるような環境になっている。
皆、厳しい選別を勝ち抜いてきたという自負もあるだろう。例えば最もジュニアなアソシエイトという役職についても、大学新卒は採用せず、マッキンゼー、BCG、ベインといったトップコンサルティングファームか、ゴールドマンサックスなどの一部の投資銀行で数年以上の経験を積んだものに絞って年間数百名程度の面接を行い、その中から10名程度を採用する。そうして入った組織のメンバーが皆優秀であることからも、自らのステータスを再確認する。
オフィスがあるのはボストンでも最も賃料が高いビルの一つ。そこの最上階から数フロアを占拠している。眼下にはボストンの街が一望できる。迂闊にも、ちょっとエラくなった気になる。
デスクは若手から全員個室である。我々インターンの学生にも、名前のプレートが掲げられた4畳半ほどの個室が与えられる。それも無機質な安物のパーテーションで区切られた部屋ではなく、木をふんだんに使った落ち着いた部屋である。デスクも、かつて働いていた日本の事業会社の取締役の机より広い。立派過ぎて、未だに、ちょっと落ち着かない。
前述のとおり、社内にはジムも食堂も完備されている。
ライフスタイル
まだそれほど多くの社内の人を知らないが、話を聞いた限りでは、やはり皆仕事は繁忙・閑散の波が激しく、プライベートは少なからずその波の犠牲にならざるを得ない。休暇をとり、旅行を計画していても、すべてキャンセルせざるを得ない場合もあるし、皆それをある程度覚悟している。
しかしながら(あるいは「だからこそ」)、皆それぞれに、余裕があるときには少しでもプライベートを充実させようと努力している。特に家族のいるスタッフは、子供との時間をできるだけとるように腐心しているし、デスクの周りは子供の写真や子供がかいた絵で埋め尽くされている。
一部の投資銀行に見られるような、離婚・再婚の止め処ないサイクルではなく、家族を大切にしようという空気がみられる。
こんなところだろうか。
今のところ、まだ倒れてしまうほどの仕事量ではないし、こうした書き物をする多少の余裕もあるが、これからどれだけ忙しくなるのか、どれだけ知的・肉体的にタフになるのか、ちょっと想像がつかない。
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経営コンサルタント
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旅行、ジャズ鑑賞
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世の中を素直に見ることが苦手な関西人。
MITスローン校でのMBA、プライベート・エクイティでのインターン、アパレル会社SloanGearの経営、そして米国での生活から、何を感じ、何を学ぶのかー。
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