プライベート・エクイティ・ファーム(PE)で働き始めて2週間半が過ぎた。最初の4日間ほどは研修だったので、実質2週間か。
この間、米国の金融サービスの会社の企業価値評価に関わった。コア事業の成長が鈍化する中で、最近注目を集める類似の金融サービスに新規参入し、それが企業全体としての成長と収益性を維持する、というのが、ターゲット企業の筋書き。これに、「ほんまかいな」と鋭いツッコミを10本くらい入れて、「ほんま」かどうか、そのツッコミを検証する。私は新規事業分野の算定をまるまる任せてもらった。金融に土地勘がないうえに、日本には存在しない奇妙なサービスで、どこからどうやって収益が生まれるのかという仕組みの理解に時間がかかったが、仕組みさえわかれば、何が企業価値を大きく左右するキモかもそれなりににわかる。
チームは、担当のマネージング・ディレクター(MD)の下に、分析の方向性を決め答えを吟味するプリンシパル、その下に実際の作業を設計するシニア・アソシエイト、さらにその下に2年目のアソシエイトと私、という小所帯。ターゲット企業から、投資銀行を通じて、「興味ありますか?」と聞かれている程度の、非常に初期段階の案件なので、まあそんなものなのだろう。こちらとしては全体が見通せてありがたい。ちなみにシニア・アソシエイトはBCG、2年目アソシエイトはマッキンゼー、と皆コンサルティング・ファームの出身。そしてスーパー賢い。ほとんどの場面で、1を言えば10が解る世界なので、私の英語の拙さが補われて助かった。
そのメンバーで分析を開始し、正味5日くらいで、最初に挙げた10本のツッコミのうち、どれは「ほんま」だと言っても良さそうで、どれが「うそっぽい」かが見えてくる(というか、見えないといけない)。「うそっぽい」となったところには、我々なりの見解を構築する。例えば売上が今後5年間で平均20%伸びるというのがウソっぽい、というのなら、何%が妥当か、平均だけでなく、それぞれの年について根拠のある数字を算出しなければならない。それを含めて、分析開始から一週間ほどで、自分たちが妥当と考える企業の将来予測財務諸表と、それに基づく企業価値(要するに今買うとしたらいくら出してもいいか)が導き出される。当然、それは会社側の計画をまるまる信じた場合の企業価値と、数字上の開きがでる。そうすると今度は、その違いをもたらすものが何かを改めて要素分解し、最も大きい要因1-2点に絞って、確度を上げるためにさらに一段細かい分析をする。今回はMDへの報告の日程が延びたりしたため、最後にはかなり凝ったシミュレーションまで作りこんだ。
そして今日、MDへの最初で最後の報告。このMD、とにかく細かい指摘をしてくることで有名らしいが、実際、驚くほど飲みこみが早く、しかも分析の細部を自分の頭の中で回してみて、「ここは事実らしいが、ここは君らが前提を置いているだけで、こういう状況になったらこう変わるだろう?」と、まるでエクセルが頭にインストールされているかのような切り返しをしてくる。このPEファームの凄いところの一つは、MDやプリンシパルといった幹部クラスがほとんど「叩き上げ」であること。他社からMDとして参画した人間は、片手ほどしかいないという。従い、このMDの例が極端かどうかはわからないが、皆自分でこつこつ分析をしてきた種族であり、多かれ少なかれ細かい指摘をしてくる。それに対して、どういう論理構成か、なにが下支えする事実か、なには仮定か、仮定の中で根拠の薄いものはどれか、がきちんと説明できなければ、出直して来い、となる。幸い今日は、「立て板に水」とまでは行かなかったが、それなりに納得してもらえた。そして、納得した上で最後に出た結論が、
「これ以上、今の状態で分析を進めることもできないので、この成果をもって一度銀行と話をしよう。チームの君らは一旦筆を置いてくれ。ありがとう」
かくして、無事?一本目の案件が終了した。
ミーティングが終わったのが11時半。さて、昼飯はどうするかなあ、と思いながら、メールのやり取りをしたり新聞記事を追ったりしていると、1時間後、来ました、人事のオバチャンが。
「聞いたわよ、案件、殺したんですって?」
"KILL"という能動的な単語で言われると心外なので、「違う、案件が死んだんだ。俺はそれが死ぬべきだと明らかにしただけだ」と言ってみたが、鼻で笑われた。彼女にとっては、私が「空いた」という事実がすべてらしい。
「次の仕事、持ってきてあげたわよ。ヴァージニア州に本社のある△△って会社。○○銀行の紹介よ。今、送られてきた資料をコピーしてあげているところ。来週月曜日の午後までに、銀行に興味があるかどうか返事しなきゃいけないそうだから、よろしくね♪」
・・・って、今木曜日なんですけど。
MITスローン校でのMBA、プライベート・エクイティでのインターン、アパレル会社SloanGearの経営、そして米国での生活から、何を感じ、何を学ぶのかー。
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