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「 Moving of a friend ...ラテンの引越し 」
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ラテンの前向きさには、しばしば啓発される。
これまで30年強の人生の中で、引越しは10回近く経験したように思うが、何度やっても面倒で嫌なものだ。
その引越しを、彼らは陽気にこなしてしまう。

秋学期でチームメートだったチリ人のAR君が引っ越すというので、手伝いに参加した。
3月に子供が生まれるのにそなえて、同じ寮の高層棟(ワンルーム)から2LDKの低層棟に移る、という引越しである。
かつて我が家がここWestgateに入ってすぐに、卒業生から購入した家具を高層棟の地下から運び上げたが、あれと同じで、高層棟から低層棟への横移動と、階段を使っての低層棟内縦移動が、なかなか骨である。
朝10時、AR君の高層棟の部屋を訪ねると、チリ人、トルコ人など7-8名の友人が既に作業を開始していた。女性陣がキッチンで食器を梱包している横で、男どもは目についた家具を手当たり次第に運び出している。プランもなければ指揮官もいない、無秩序状態である。家具はほとんどが組み立て式だが、手間を省こうと分解せずに運ぶことを主張する人間と、分解することを提案する人間で意見が割れたりもするが、引越す本人はほとんど意に介していない。とにかく、運ぶ。
3人掛けのソファーが、分解できない一番の大物だった。どうみても、部屋の入り口の扉より大きい。どうやって部屋に入れたのか、と誰かが尋ねると、AR君は笑顔で「忘れた。まあ、とりあえずやってみよう」という。日本人のウルサイ人なら「それが人にモノを頼んでいる態度か!」と罵声が飛んでもおかしくない状況だが、あまりにあっけらかんと楽しそうに言うので、素直に「やってみよう」という気になるのが不思議である。
で、とりあえず扉に突入してみる。予想通り、長すぎて行き詰まってしまう。ああでもない、こうでもない、といじっていると、ソファーの座面に傷がついたり、足が壁にめり込んで壁が傷ついたり、いろんなことがおきる。そのたびに、"Oops!"とかいいながら、大笑いである。

なんとかかんとかすべての家財道具を高層棟の1階に下ろすと、そこからの横移動はトラックで行う。レンタルトラック屋U-HAULで借りてきた、いかにも米国らしいゴツいフォード製トラックである。
もっとも、高層棟からAR君が入る低層棟までは、直線距離で100mほどしかない。こんなトラックがいるのか、とトルコ人の友人がつっこむと、
「この方が面白そうだろ!?」
という。一つずつ運ぶのは大変だ、とか、台車に載らないものがある、とか、いくらでも理屈はありそうなものだが、そういう議論を超越している。これにはトルコ人も「説得」されたようで、
「じゃあ、オレは荷物と一緒に荷台に乗ってみる!」
と荷台に駆け上がり、シャッターを閉めろという。希望通りに「閉じ込めて」やると、「真っ暗だー」とかいいながら中からシャッターを叩いている。ラテンのノリは、真面目なトルコ人を子供にしてしまうようだ。

低層棟に移ってからは、階段で3階まで家財道具を上げる作業になる。かなりの重労働で、寒空の下でも汗が流れる。
ここでも、当然ながら、先ほどのソファーが問題になる。果たして階段をくぐり抜けていけるのか。
そろそろ疲れも見え始め、皆何となくソファーに手をつけるのを躊躇していると、AR君曰く、
"Hey, this is the most fun part of the day!"
確かに、大きなソファーを担いだ男4-5人が、ソファーの角度や向きを変えながら必死に階段を登る様は、傍目にはfunnyかもしれない。が、それを、これから運ぼうとしている友人に言ってしまうのだから、すごい。この精神構造というか心意気があれば、たいていの困難は笑って乗り越えられるのではないか、と思ってしまう。かくて、ソファーは「面白おかしく」階段を登っていったのであった。

大方の荷物が部屋に入った頃、AR君はオーブンをいじって何かやっている。そして我々が残りの家財道具もすべて運び終えた頃、
「ピザが焼けたぞ。オレ、ハラ減ってたんだ。食べていってよ」
と、焼きたての冷凍ピザが出てきた。
皆、運んだばかりで無秩序に置かれた椅子やらソファーやらに腰をおろして、ピザを食べる。
このとき、まだ12時を少し過ぎたばかり。2時間強で移動がすべて終わったことになる。自分が同じ作業をしたときに比べて、1時間以上早い。もしかして、ラテンのノリは生産性向上の力があるのか、とすら思ってしまう。

"this is the most fun part of the day"
あの言葉は、暫く私の頭から離れなそうである。

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経営コンサルタント
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旅行、ジャズ鑑賞
自己紹介:
世の中を素直に見ることが苦手な関西人。
MITスローン校でのMBA、プライベート・エクイティでのインターン、アパレル会社SloanGearの経営、そして米国での生活から、何を感じ、何を学ぶのかー。

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