春学期の授業が始まった。
家庭とのバランスなどを考慮し、春学期の授業はすべて月・水・金の三日間に詰め込んで、火・木は授業を入れなかった。そのため、通常初日である昨日は私にとっては休日で、水曜日の今日が初日になったわけである。
「週休4日」にしたとはいえ、履修科目の数は取得可能単位上限いっぱいまで登録したので、授業のある日は盛りだくさんである。
時間割は単純。午前中は月・水と同じ科目が2科目ずつ、午後は月・水・金と同じ科目が3科目ずつある。つまり、月・水は一日5科目、金は3科目履修することになる。
そして今日は水曜日、5科目の日である。朝8時半から、1時間半の昼休みを挟んで、17時半まで間断なく授業が続く。さすがに長い休み明けのカラダ(脳?)には、ちょっと堪えた。帰宅後入浴・食事をすませると、2歳の娘よりもベッドに行きたかったほどである。
とはいえ、今後面白くなりそうな授業も多く、初日時点での感想であるが、履修選択としては悪くなかったと思う。
以下、簡単に各授業の特徴を記す。
1限目:Strategic Management
担当教官:Pierre Azoulay
その名のとおり、企業戦略策定・分析の基礎を学ぶ授業。教授曰く、「『どうやって価値を創出するか』『どうやって価値を収益にかえるか』を中心に学ぶ。『どうやって価値を実現するか』は別の科目に譲りたい」とのことだった。シラバスをみると、M.PorterのFive ForcesやValue Chainなど、基礎的な考え方の枠組みを、ケーススタディを通じて学んでいくようである。正直言って、平生のコンサルティング業務のなかで使っている以上の革新的な視点がそれほど得られるとは思わないが、いくつか興味をひく選択科目を履修するための条件として履修が課せられているので、半ばやむを得ず登録している。
教授はフランス人で、よくしゃべる。教えようとする熱意が伝わってくるのは評価したいが、自分の思っている方向に学生の議論を強引に引っ張ろうとしたり、先に自分がしゃべってしまったりするのは、ちょっと煩わしい。ケーススタディの題材は面白そうなので、あとは彼のファシリテーション力次第だろう。
2限目:Finance Theory II
担当教官:Paul Asquith
去る秋学期に履修したFinance Theory Iに続く、金融の基礎科目の第二段で、企業金融(コーポレート・ファイナンス)について学ぶ。つまり、企業がどうやってカネを調達するか、企業がどうやって適切にカネを投資するか、企業がどうやってカネ切れにならないようにするか、を学ぶ科目である。
教授はMITの名物教授の一人で、コーポレート・ファイナンスの第一人者。教えるのも非常にうまいとの評判である(Teaching Excellence Awardというのを13回も受賞している)。何より特徴的なのは、肋骨かどこかの怪我の影響で長時間身体を起こしていることができないらしく、寝て教えることである。黒板の前に敷布団と枕が用意され、彼はそこに仰臥して教える。足が悪いわけではないので歩けるし、時々起き上がりもするが、背を伸ばして板書することなどはできない。そのくせ、「私はパワーポイントは嫌いだ」といってスライドを使わないので、代わりにTeaching Assistantに板書をさせる。非常に理路整然と話をするし、「はい、そこで段を変えて」「ここからは右の黒板に」などと細かく指示をするので、板書が混乱することはないが、それでも「床」から教えてもらうというのは、前代未聞である。布団を気にしすぎて、脱落しないようにしなければならない。教え方は講義とケーススタディがバランスよく混合されている。多少骨が折れそうだが、面白そうだ。
3限目:Marketing Management
担当教官:Michael Braun
Marketingの入門科目である。これも1限目と同様、他の科目を履修するための条件として課せられているので、履修している。
「同じSUVでも、レクサス、日産ムラーノ、シボレー、GMCなどでは、訴求している客層が違いますね」という話から始まって、大方のMarketingの授業と同様、「まあ、当たり前」という話をする。
課題として、3月12日までに、何でも良いので一社会社を決めて、顧客インタビューを含む同社のマーケティング戦略の分析と提案をまとめる、という「プロジェクト」があり、これにどれだけ労力を投入してやるかで、負荷が決まってきそうである。
4限目:Marketing Strategy
担当教官:Birger Wernerfelt
名前のとおり、1限目と3限目の中間のような授業である。
ひたすら、ケーススタディをやる。
イケア、ウォールマート、スターバックス、イートレード証券など、最新の事例を取り上げるので、それらを読むだけでも面白いだろう、と思って履修している。
デンマーク人のベテラン教授は、熱心に教えてくれる。ミクロ経済学の理論をベースにしながら、「売り方」に焦点をあてて解説を進める。体系的な理論の講座ではないので、ランダムな示唆の集合体になるかもしれないが、面白い話が聞けそうである。
ビジネススクールの学生だけでなく、学部生も履修できる講座なので、若者が多く、無邪気な、ピントのずれた発言をするのが、ちょっと面倒くさい。
5限目:Applied Macro & International Economics
担当教官:Roberto Rigobon
昨年学んだミクロ経済学に続き、マクロ経済学を学ぶ。
何度も言うようだが、経済学部出身ながら、こうしたいわゆる近代経済学は「単位が取れればいいや」的にしか勉強しなかったので、ほとんど覚えていない。どころか、今や金融や会計などに比べて、最も苦手な分野になっている。理論が形而上学的で、ピンとこないのである。
が、この授業はそんな私にぴったり(?)の、エキサイティングなものになりそうである。
すべては、ベネズエラ人の「ぷっつん」教授による。
噂には聞いていたが、文字通り、授業の冒頭から大暴れである。
既に着席している学生の席を強引に替えさせたり、放置されていた学生のネームカードを引きちぎってみたり、ある学生のコーヒーを取り上げて同郷のベネズエラ人学生に渡してみたり、横暴の限りを尽くしている。
授業の方針も明快かつ乱暴。
「発言しろ。但し、質問ではなく、簡潔で意味のある意見でないと、ポイントはつかない。そのために、予習は絶対やってこい」
「欠席はマイナス2点。どんな理由も関係ないし、第一理由なんか聞きたくない。就職活動の面接?勝手にやってくれ。マイナス2点だ。遅刻も同じ。遅れるのと欠席は同罪だ」
「教科書はあるけど、買わなくてもいい。俺が全部教えてやる。必要と感じたところだけ、図書館で借りてコピーすればいい」
「授業中は、他の人間の邪魔にならなければ、何をやってもいい。パソコンをいじってもいいし、株価をチェックしてもいいし、酒を飲んだって構わない。裸になりたければなってもいい。オマエらが授業をつまらないと感じ、他のことをし始めたなら、それはオマエらを盛り上げられなかった俺のせいだ。100%、俺が悪い」
「今後10年間は忘れない、使える理論を教えてやる。マクロ経済学を教えて17年になるが、今まで俺の授業が分からず、落ちこぼれたヤツはいない。絶対に、役に立つ。保証する」
「リスクをとれ。間違えたっていい。何かしゃべれ。どんなにバカだと思われたって、どんなに格好悪くったって、ベネズエラ人よりマシだ」
…一日の終わりには、ちょうど良い授業である。
予備選あるいは党員集会が開かれた両党約20州のうち、現時点で勝者が明らかになっていないのは、それぞれ4州ずつ。
勝者が明らかになった州の合計では、民主党はClinton、共和党はMcCainがそれぞれ対立候補をリードしている。最大票田のカリフォルニア州がまだ開票作業中とはいえ、同州での現時点のトップはそれぞれ民主党Clinton、共和党McCainで、二位と20ポイント前後のギャップであるから、ほぼ逆転はないだろう。
対立候補との差は、昨日までに予備選・党員集会を終えた州の結果を加えると、さらに開く。民主党はまだ比較的僅差だが、共和党は通算一位のMcCainが二位のRomneyと三位のHuckabeeを加えたよりも多くの代議員数を獲得しているので、ほぼ勝負あった、という状況である。
Clinton vs McCain。。。
いみじくも、今日買い物帰りの車の中で、この顔合わせになったらサイアクやなあ、と妻と話していたとおりの顔ぶれである。
予備選のキャンペーンを通じて、この二人には共通していることがあったように思う。
それは、対立候補に比べて、他候補を批判するコメントや演説が多い、ということだ。
そんな二人が各党の統一候補となって戦おうものなら、どれほど無内容で醜い選挙戦になるか、考えたくもない。
特にMcCainのオッサンは、このところRomneyの批判ばかりしていたようだが、今頃Clintonのアラサガシを参謀に命じていることだろう。
もっとも、Romneyのこれへの対応方もdefensive過ぎたとは思うが、こうしたネガティブ・キャンペーンが功を奏して、実績などから客観的にみればどうみても共和党ではRomneyに軍配が上がるはずの経済問題について出さえ、McCainに支持が集まったというのだから、米国民の民意・民度に失望してしまう。結局、この日Romneyが勝ったのは、先日まで知事だったここマサチューセッツ州と、信仰するモルモン教の総本山であるユタ州を除けば、ミネソタ州、コロラド州、ノースダコタ州、モンタナ州と、いずれも党員数が極めて少ないマイナー州ばかりである。
エクセルで予算案を練り、パワーポイントスライドを使って施策説明をする、コンサルタント出身の大統領(Romneyのこと)を見たかったが、少なくともあと4年は待たなければならなそうである。
そして、他人の批判が大好き・大得意な両候補のどちらが勝ったとしても、いつも格好の批判対象である日本への風当たりが強くなるであろうことは、容易に想像できる。
今年の選挙戦への私の中での期待と盛り上がりが、一気にさめてしまった。
IAP(Individual Activity Period)を含む長い冬休みが終わり、今日から2008年の春学期が始まる。
スローンの1年生にとっては、授業選択の自由がほとんどないコア学期が終わり、いよいよ自分で自分の勉強内容を設計できる、「ビジネススクールらしい」期間が始まる。もちろん、大学のときも履修科目の選択の自由は提供されていたが、正直って自分の場合、自分の将来のキャリアに資するかどうか、実学と理論のバランスはどうか、など、積極的な要素を真剣に考慮して選択していたとは、とても言い切れない。今考えると、とてももったいないことをしていたと、痛く反省する。
春学期の開始、といっても授業は明日からで、今日はその選択科目の履修登録(実際はウェブ上で随分前に済ましているが、最終的な書類上の手続き)を行うためと、教材(なんと授業開始の前日まで売り出さない)を買うために、皆登校してくる。
11時半頃に校舎を訪れると、建物の内外に見知った顔がゴロゴロといる。サマーインターンに向けた面接の進捗、冬休み中の旅行の話、選択した科目の話、などで、次から次へと現れる級友と話していると、あっという間に20-30分は経ってしまう。自分が学生であることを再確認させられる。
履修登録、昼食の後、教材を買う。Course Packと呼ばれる教材は、授業で使うパワーポイントスライドや論文が綴じられた、A4版で厚み2cm前後の冊子である。一冊60~90ドル程度。当面必要な5冊は、暑さ10cmほどの紙の塊である。しめて380ドル也。全部頭に入れば安いのかもしれないが、またこれが定期試験前には、各教科裏表1枚の紙にまとめられてしまうのかと思うと、微妙な値段である。
明日から、また生活のリズムが変わる(というか、変えないと…)。
気合入れて、力抜いて、ぼちぼちいきましょう。
自動車の具合が悪いので、修理に行ってきた。
米国に来てから半年、いやそれ以前に仕事で来たときの経験を含めても、この日の修理サービスは、米国で体験した顧客サービスの最も優れた事例の一つといえるものであった。
8月に中古で買ったVolvoだが、左にハンドルをきると、キュルキュルと異音がした。
購入したディーラーは自宅から20マイルほど北に離れており、ちょっと修理に預けて帰ってくるというわけにもいかないため、隣町のAllstonにあるVolvoのディーラーを訪れることにした。
Boston Volvo Villageというディーラーで、New England地区では最も古いVolvoのオフィシャルディーラーらしい。
ホームページを通じて予約してあった午前9時半にディーラーの工場を訪ねる。
自動車を係員に渡して、受付のカウンターに行き氏名を告げると、担当の男性がカウンター越しに症状を簡潔に尋ねてくる。こちらが話すと、それをパソコンでデータベースに入力してゆく。調べてみないとはっきりしないが、今日の夕方には修理も含めて終わると思う。いずれにせよ、一旦車は預からせて欲しい、とのことだった。5分ほどで彼との会話は終わり、振り向くともう車は修理待ちの駐車場に回送されていた。
最寄の地下鉄の駅までの送迎サービスがあるというので、待合室で待つ。
待合室は簡素だがそれなりに快適。水やコーヒーが用意され、液晶の大型テレビや、キッズルームまである。
20分ほど待っていると、送迎の希望者の方はこちらへ、と男性が呼びに来たので、着いていく。
恭しく案内されたのは、Volvoのセダンをロング・リムジンに改造した黒塗りの車であった。運転席と助手席の後部に、向かい合わせに最大6名が座れるようになっている。
このとき利用者は私一人。革張りの黒いシートで、ちょっといい気分である。
最寄の駅に行くのも自宅にいくのも距離的には変わらないので、どうせなら自宅まで送ってくれないか、と頼んでみたら、あっさり了承してくれた。
11時半頃電話で連絡があり、パワーステアリングの一部と排気管の一部に不具合があること、部品の交換が必要で費用が370ドルほどかかること、が告げられた。すぐ他に選択肢もないので、了解する。
14時頃、修理が終わったのでいつでも来てくれ、との連絡。
16時15分に、MITの近くの消防署前で、例のリムジンがピックアップに回る、とのこと。
16時15分、指定された場所に行ってみると、ほぼ時刻どおりにロング・リムジンが現れ、ディーラーまで快適に運んでくれる。
到着すると、作業内容が簡単に説明され、料金を払って手続き終了。
工場の前に車が回送されてきて、引渡しとなる。
滞在時間は5分にも満たない。
泥汚れが酷かった車は、綺麗に洗車されていた。
迅速、丁寧、きちんとした説明、そしてロングリムジンに代表される「ちょっとリッチな」接客。
いずれもなかなか米国でお目にかかることができないものである。
日本にもって行っても、十分競争に耐えうるサービス水準かと思う。
請求金額の工賃は確かに高かったが、これだけサービスがしっかりしていれば、十分選択肢になり得る。
リピートしようと思う。
実際、朝訪れた際も、夕方訪れた際も、他にも大勢の顧客がいた。
パスポートに続き、やればできるじゃないか、という気持ちである。
なぜこれがあまり水平展開されないのかが、依然として疑問ではあるが…。
MITでは、スローンを含め、1月に定例の授業を開催していない(春学期の開始は2月から)。
代わりに、この期間はIAP(Individual Activity Period)と称して、実に多種多様な短期講座を開催している。扱うテーマは工学、数学、経済学などの学術領域は勿論、スポーツ、語学、料理、音楽、果てはビールのテイスティングまである。一部の例外を除いて、所属学部や現役・OBの別に関係なく、自由に登録・受講できるのも特徴である。
このIAPの講座の一つであるDistributed Leadership Workshopというのに、昨日から参加している。
スローンが主催している講座で、本校を代表する教授の一人であるThomas Maloneがリードしている。
45人限定、3日連続のクラスで、初日と二日目は朝8時半から夕方18時まで、三日目も朝8時半から午後15時までという、短期集中ながらなかなか負荷のかかる講座である。
内容は、その名の通り、Distributed Leadership Model (DLM)というリーダーシップを要素分解・定型化した一つの理論をもとに、その各要素の理解と実習、それを通じた各人のリーダーシップの育成を目指すものである。
Distributed Leadership Modelそのものの解説は、スローン作成の紹介ページに譲るが、私が理解した限りにおけるWorkshopの要旨は、以下のとおりである:
- Leadershipとは後天的に形成されるもの。LeadershipとCharacterは違う
- Leadershipとは、Visioning、Sensemaking、Relating、Inventingという4つの要素から構成される。これらは相互に欠くことができず、すべてがバランス良く機能しなければならないが、一人の個人にすべてが備わっている必要はなく、二人以上の個人で分担することもできる
- Visionとは、天啓のように突如ひらめくものとは限らず、往々にして現実の緻密な観察や分析(Sensemaking)の中から帰納されるものである
- Sensemakingは、目的的(purposive)かつ全体的(collective)でなくてはならず、次の示唆を誘発するようなもの(generative)で、かつ動的に繰り返されるもの(dynamic)であるべきである。その過程で、我々は目の前の世界を「データ」に置換し、そこから意味合いを読み取っていくが、置換した「データ」はすでに現実世界から選択的に抜粋したものに過ぎない、ということを忘れてはならない(We don't describe the world we see. We see the world that we can describe)
- Visionは単なる願望ではなく、意識的に選択したものでなくてはならず、個人的なコミットメントが必要である(If there is no personal vision, there is no shared vision)
- Visionは自らの価値観(Value)と整合していなければならない。価値観を具体的に理解するヒントは、自分が死ぬときにどういう状態でいたいかを考えることである
参加者の中には、
「こんなもの、まったくの時間のムダだよ」
といって不貞腐れている人間も2-3名見受けられたが、私にとっては、部品部品で考えていた自分のVisionを時間をとって整理する良い機会になったし、普段何かひらめいたりすることの少ない自分でも人を引っ張るVisionを持てるかもしれないと、勇気を与えてくれる内容であった。
コンサルティングをしていると、よく「軸」という言葉を使う。
物事を整理・構造化するときの切り口ないし視点という意味で使われる場合と、価値観ないしVisionという意味で使われる場合があるように思うが、どちらの場合も「まっすぐ一本通っている、整合している」というところがポイントである。
そして「軸」のない分析、「軸」のない戦略、「軸」のない経営方針、あるいは「軸」のない生き方は、議論の中でも説得性を持ちえず厳しく糾弾されるし、実際にうまく機能しないことが多い。
2年という留学期間は、自分の中でのこの「軸」を再度整理・構築し、それを貫くことの意味合い・やり方などを学ぶ期間とも位置づけている。そしてその意味で、このWorkshopは滝打ち修行のような、落ち着きと思想の活性化を促す効果があったと思う。
まあ要するに、どんな概念的な話でも、ショーモナイと思って聞けばショーモナイし、想像力を働かせながらオモロイと思って聞けばオモロイ、ということです。
MITスローン校でのMBA、プライベート・エクイティでのインターン、アパレル会社SloanGearの経営、そして米国での生活から、何を感じ、何を学ぶのかー。
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