「 Kiva Systems ...カネを動かすより、モノを動かしてみないか! 」
月曜日のランチタイム、特に予定もなかったので、何となくOperations Management Club主催のプレゼンテーションを覗いてみたが、これが非常に面白かった。
プレゼンターは、Kiva Systemsで事業開発部長を務めるRob Stevens氏。McKinseyからFreeMarketというベンチャーに移り、スローンでMBAを取得した後、創業間もないKiva社に参画した。
彼が参画した当時のKiva社は社員20人足らず。今は社員120人を超える。
同社が開発し、提供しているのは、物流倉庫ソリューション。一言で言えば、「動く棚」である。
インターネットビジネスとグローバル・ソーシングの拡大とともに、物流は加速度的に複雑になっている。人々の商取引の自由度が、テクノロジーのおかげで時間と場所を超えて拡大する一方で、「モノを動かす」という最も根源的で古典的な経済活動の現場は、技術革新による大きな効率改善をみることなく、ただ爆発的に物量が拡大してきた。
特に米国は、日本に比べてインターネット商取引が生活に浸透している。Amazon.comやDellなどの有名どころに加えて、オムツなどの乳幼児用消耗品を扱うDiapers.comや、Gapのオンラインショップ、デザインアパレルのZazzleなど、数多くのビジネスが生み出され、驚異的なペースで成長している。これらのビジネスの成長は、それだけBusiness to Consumerの直接物流が拡大していることを意味し、それだけ物流現場が巨大かつ複雑になっていることを意味する。
しかしながら、物流現場の技術的進歩といえば、規模の拡大、立地の改善、トラックとのドッキングの合理化といった極めて初歩的な改善から始まって、ベルトコンベヤーの導入が近年最大の「革新」だったくらいで、およそ他の産業から100年単位で遅れているといっても過言ではなかった。現在主流となっているベルトコンベヤー式の倉庫も、商品をピックアップするための箱が巨大な倉庫を延々と移動しなければならないという時間効率の問題と、移動や手待ち時間の伴う作業員効率の問題を根本的に改善する術を見つけられていなかった。
Kiva社はこの事実に注目し、倉庫実務の抜本的な変革を考えた。
その際彼らは、以下のような方針を基本に据えた。
・ 労働生産性の最大化を最優先課題とすること。そのために人間の移動距離を最小化すること
・ 出荷指示の到着から出荷までの時間を極小化すること。そのために出荷用の荷箱の移動距離も最小化すること
・ 人間の得意なこと(具体的には商品を「取る」「確認する」「移す」という作業)は人間にやらせて、ロボットにはシンプルな作業をやらせること
・ ハードは極力汎用技術・汎用機械を用い、ソフトウェアの開発に重点を置くこと
・ 倉庫の事後的なレイアウト変更、拡大を容易にすること
こうした考え方から発想されたのが、「動く棚」のコンセプトである。
これはなかなか、言葉では上手く説明しきれない。
まずはこちらのウェブサイトで、デモビデオをご覧いただきたい。
Kiva社が開発した「機械」は、縦長の棚の下にもぐりこんだようなオレンジ色のフォークリフト・ロボット。ただ、これ事態は大してカシコイわけではない。すべてのロボットの進路は一箇所のコンピュータが集中的に計算、制御し、無線LANを通じて各ロボットに指示される。床に等間隔に配置された白い小さなタイルのようなものがバーコードになっていて、各ロボットはバーコードの上に来るたびに次に前後左右どちらに行くべきかを知る。そうしてロボットは倉庫の周囲に配置された作業員のところに徐々に近づき、作業員が商品をロボットが担いだ棚から取ると、また元の位置に戻っていく。ロボットに担がれる可動式の棚は、従来型の倉庫の棚よりも高密度で設置できるため、スペース効率はきわめて高い。一見雑然としているように見えるが、移動頻度の最も高い棚が作業員に最も近い位置、つまり倉庫の周囲に近い位置に配置され、奥、つまり倉庫の中央に行くほど移動頻度の低い棚になっている。商品の需要動向の変化によるこうした棚の配置換えも、このシステムであれば一瞬でできてしまう。
一方作業員は、次々に押し寄せてくるロボットから常に正しい商品を摘み出して、正しい出荷箱に収めなければならない。作業密度が通常の倉庫より飛躍的に高いため、間違いもおきやすい。そのため、次に取るべき棚の商品にライトが当たり、それを収めるべき出荷箱にもライトが当たるようになっている。つまりライトに従って身体を動かしていれば、基本的に間違えることがないという仕組みである。
さらに、倉庫の拡大も極めて簡単にできる。物量にあわせて敷地面積を拡大し、棚とロボットを増やせばいいだけで、拡大による既存の設備の無駄が極めて少ないため、将来の事業規模拡大を見込んで最初から不必要に大きい施設を作る必要がなくなる。
この仕組みは、いわゆるGame Changing Innovationの典型的な例だろう。つまり従来の物流倉庫管理技術の漸次的改善ではなく、根本的に物流倉庫のあり方を変えてしまっている。細かい説明は抜きにしても、前掲のビデオを見ると、純粋に「おおおっ、何か知らんがスゴい!」と思うのではないだろうか。そしてこの仕組みの生み出す価値は、具体的なコストの削減であり、物流処理スピードの改善であり、投資の柔軟性向上であり、すべて「実態(リアル)」である。既にStaples、Diapers.comなど、多くの企業がこの仕組みを導入して、大きな成果を挙げているという。
金融危機に端を発する就職難はMBA学生を直撃しており、今日もDean Schmittleinから励ましのようなメールが全学生に送られていたが、こうした実体経済に目を向ければ、エキサイティングで成長を続ける仕事がまだまだある。それが米国の底力かもしれない。
プレゼンターのStevens氏が最後に言った「カネを動かすより、モノを動かしてみないか!」という言葉に心の琴線を動かされたのは、私だけではないはずである。
プレゼンターは、Kiva Systemsで事業開発部長を務めるRob Stevens氏。McKinseyからFreeMarketというベンチャーに移り、スローンでMBAを取得した後、創業間もないKiva社に参画した。
彼が参画した当時のKiva社は社員20人足らず。今は社員120人を超える。
同社が開発し、提供しているのは、物流倉庫ソリューション。一言で言えば、「動く棚」である。
インターネットビジネスとグローバル・ソーシングの拡大とともに、物流は加速度的に複雑になっている。人々の商取引の自由度が、テクノロジーのおかげで時間と場所を超えて拡大する一方で、「モノを動かす」という最も根源的で古典的な経済活動の現場は、技術革新による大きな効率改善をみることなく、ただ爆発的に物量が拡大してきた。
特に米国は、日本に比べてインターネット商取引が生活に浸透している。Amazon.comやDellなどの有名どころに加えて、オムツなどの乳幼児用消耗品を扱うDiapers.comや、Gapのオンラインショップ、デザインアパレルのZazzleなど、数多くのビジネスが生み出され、驚異的なペースで成長している。これらのビジネスの成長は、それだけBusiness to Consumerの直接物流が拡大していることを意味し、それだけ物流現場が巨大かつ複雑になっていることを意味する。
しかしながら、物流現場の技術的進歩といえば、規模の拡大、立地の改善、トラックとのドッキングの合理化といった極めて初歩的な改善から始まって、ベルトコンベヤーの導入が近年最大の「革新」だったくらいで、およそ他の産業から100年単位で遅れているといっても過言ではなかった。現在主流となっているベルトコンベヤー式の倉庫も、商品をピックアップするための箱が巨大な倉庫を延々と移動しなければならないという時間効率の問題と、移動や手待ち時間の伴う作業員効率の問題を根本的に改善する術を見つけられていなかった。
Kiva社はこの事実に注目し、倉庫実務の抜本的な変革を考えた。
その際彼らは、以下のような方針を基本に据えた。
・ 労働生産性の最大化を最優先課題とすること。そのために人間の移動距離を最小化すること
・ 出荷指示の到着から出荷までの時間を極小化すること。そのために出荷用の荷箱の移動距離も最小化すること
・ 人間の得意なこと(具体的には商品を「取る」「確認する」「移す」という作業)は人間にやらせて、ロボットにはシンプルな作業をやらせること
・ ハードは極力汎用技術・汎用機械を用い、ソフトウェアの開発に重点を置くこと
・ 倉庫の事後的なレイアウト変更、拡大を容易にすること
こうした考え方から発想されたのが、「動く棚」のコンセプトである。
これはなかなか、言葉では上手く説明しきれない。
まずはこちらのウェブサイトで、デモビデオをご覧いただきたい。
Kiva社が開発した「機械」は、縦長の棚の下にもぐりこんだようなオレンジ色のフォークリフト・ロボット。ただ、これ事態は大してカシコイわけではない。すべてのロボットの進路は一箇所のコンピュータが集中的に計算、制御し、無線LANを通じて各ロボットに指示される。床に等間隔に配置された白い小さなタイルのようなものがバーコードになっていて、各ロボットはバーコードの上に来るたびに次に前後左右どちらに行くべきかを知る。そうしてロボットは倉庫の周囲に配置された作業員のところに徐々に近づき、作業員が商品をロボットが担いだ棚から取ると、また元の位置に戻っていく。ロボットに担がれる可動式の棚は、従来型の倉庫の棚よりも高密度で設置できるため、スペース効率はきわめて高い。一見雑然としているように見えるが、移動頻度の最も高い棚が作業員に最も近い位置、つまり倉庫の周囲に近い位置に配置され、奥、つまり倉庫の中央に行くほど移動頻度の低い棚になっている。商品の需要動向の変化によるこうした棚の配置換えも、このシステムであれば一瞬でできてしまう。
一方作業員は、次々に押し寄せてくるロボットから常に正しい商品を摘み出して、正しい出荷箱に収めなければならない。作業密度が通常の倉庫より飛躍的に高いため、間違いもおきやすい。そのため、次に取るべき棚の商品にライトが当たり、それを収めるべき出荷箱にもライトが当たるようになっている。つまりライトに従って身体を動かしていれば、基本的に間違えることがないという仕組みである。
さらに、倉庫の拡大も極めて簡単にできる。物量にあわせて敷地面積を拡大し、棚とロボットを増やせばいいだけで、拡大による既存の設備の無駄が極めて少ないため、将来の事業規模拡大を見込んで最初から不必要に大きい施設を作る必要がなくなる。
この仕組みは、いわゆるGame Changing Innovationの典型的な例だろう。つまり従来の物流倉庫管理技術の漸次的改善ではなく、根本的に物流倉庫のあり方を変えてしまっている。細かい説明は抜きにしても、前掲のビデオを見ると、純粋に「おおおっ、何か知らんがスゴい!」と思うのではないだろうか。そしてこの仕組みの生み出す価値は、具体的なコストの削減であり、物流処理スピードの改善であり、投資の柔軟性向上であり、すべて「実態(リアル)」である。既にStaples、Diapers.comなど、多くの企業がこの仕組みを導入して、大きな成果を挙げているという。
金融危機に端を発する就職難はMBA学生を直撃しており、今日もDean Schmittleinから励ましのようなメールが全学生に送られていたが、こうした実体経済に目を向ければ、エキサイティングで成長を続ける仕事がまだまだある。それが米国の底力かもしれない。
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男性
職業:
経営コンサルタント
趣味:
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世の中を素直に見ることが苦手な関西人。
MITスローン校でのMBA、プライベート・エクイティでのインターン、アパレル会社SloanGearの経営、そして米国での生活から、何を感じ、何を学ぶのかー。
ご意見、ご感想は↓まで
sloangear★gmail.com
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