「 7-Eleven, Inc. ...米国セブンイレブンの未来 」
今日はJapan Clubの主催で、セブンイレブンの米国法人である7-Eleven, Inc.から、CEOのJoe DePinto氏とCOOの朝倉正昭氏をお招きして、同社の米国における改革と成長戦略についてご講演いただいた。
同社とは、昨春のJapan Trekで日本のセブンイレブン本社にお伺いして以来のご縁である。同Trekでの参加者の反応が非常に良かったこと、また製造業以外にも日本が世界に誇れる産業があるということを知ってもらいたかったことなどから、日本の本社を通じて去る6月に幹部の来校・講演を依頼したところ、ほとんど二つ返事で、しかもトップお二人の来校を快諾いただくことができた。
プレゼンテーションの内容を鑑み、興味のありそうな対象に絞って宣伝したこともあり、会場は立ち見が出るほどの満員。このMBA就職氷河期に、就職に直結しない講演ながら70名を超える学生が集まったという事実には、やはりMBAは就職予備校的な役割だけではないのね、と多少ほっとした。
さて、内容であるが、この手のプレゼンテーションが往々にしてウェブサイトに書かれたような情報のまとめに過ぎないのに対し、かなり具体的な内容に踏み込んだ、興味深いものであった。以下、簡単にまとめておく。
立地・出店戦略
日本のセブンイレブン、あるいはコンビニ業界と比較した際に、同社米国事業のおかれた状況はさまざまな側面で異なるが、もっとも大きな違いの一つが、この出店状況。
日本のコンビニが全国に約4万店あり、その約3割、つまり約12,000店がセブンイレブンであるのに対し、米国のコンビニ(あるいはそれに類する商店)は14万店あり、セブンイレブンは6,200店、つまり4%に過ぎない。全体の7割は独立の所謂パパママ商店である。
こうしたパパママ商店の経営はかなり苦しいはずである、とDePinto氏は推察する。セブンイレブンの平均店舗に比べて、店舗あたりの年商で3,500万円、粗利益率で7%ほどの格差があると想定されるからである。
一方で、7-Eleven, Inc.の課題としては、6,200店が大都市を中心に展開しているといえども分散しており、日本のセブンイレブンの成功の秘訣の一つといわれる地域独占戦略から程遠い、という状況がある。
そこで同社は、郊外の孤立した店舗を売却し、一方で大都市圏で選択的にパパママ商店のチェーン加盟を促し、地域独占戦略を米国でも実行する計画らしい。これが本当に実現すれば、7-Eleven, Inc.の物流面を中心にした効率改善、人々の生活に与えるインパクトは測り知れないだろう。
店舗運営改革
日本のセブンイレブンの店舗では、「単品管理」と呼ばれる在庫・発注管理が徹底されている。強力なITシステムを武器に、各店舗の店長が個々の商品の自店在庫状況、売上状況、周辺店舗における売上動向などを見ながら、追加発注の時期・量や別の商品との入れ替えを決めていく、という仕組みで、店側の自主性・モチベーションを高め、地域ごとの細かい需要の違いを反映することができるという強みがある。7-Eleven, Inc.はこれを米国でも導入しようと努めている。そのために、必要な教育、IT投資を行うとともに、店舗の所有形態も、過半数を占めていた本部直営店舗をフランチャイズ店に転換させ、店側の考え方、姿勢を変えた。
これが徹底されれば、人気商品の欠品や不人気商品の滞留といった米国の小売店にありがちな問題が解消されるばかりでなく、自店の経営・顧客のことを店長・従業員がより真剣に考えるようになり、サービス面でも改善が期待されるという。確かにボストンに来た当初、MITの近くのセブンイレブンに立ち寄って、否定的な意味での「衝撃」を受けたのを覚えている。是非改善に期待したい。
商品戦略
顧客の求めるものをより的確に提供し、さらにメーカーに対する流通側の発言力を高めるために、プライベートブランド商品の拡充が図られている。日本では毎週100以上の新商品が投入され、1年で70%の商品が入れ替わるといい、コンビニが飲料などの消費者向け商品のライフサイクルを不必要に縮めてきたとまでいわれているが、そこまで行かなくとも、より流通側、つまり消費者に近い立場の意見を商品作りに反映させていきたいという。そのためには、メーカーに自らが掴んだ顧客ニーズを伝え、商品設計に参画していくだけでなく、自らの主導でプライベートブランド商品を作ることが合理的だと、DePinto氏は語る。
また日本のコンビニエンスストアの売上は、食品・飲料が7割を占めるが、米国のコンビニエンスストアの売上はガソリンとタバコの売上で全体の6割を占めており、喫煙人口の減少や原油価格の変動、税制の変更などの外部環境の影響を受けやすい上に、利益率が低い。7-Eleven, Inc.では徐々に食品の売上比率を高め、売上構成を日本に近いかたちにもっていくことを目指している。そのために、米国人の好むHot Food(ピザやホットドッグなど)を新たに開発し、今のところ順調に売上を伸ばしているらしい。
物流改革
最後に、物流面であるが、Big Boxといわれる大型店舗(ウォールマート、コストコなど)が強く、また全体に流通よりもメーカーが強い米国では、DSD (Direct Store Delivery) と呼ばれるメーカーからの店舗への商品直納が主要な物流形態となっている。7-Eleven, Inc.ではこれが非常な非効率を生んでいる。何しろ、個別の商品の配送頻度は少ない(せいぜい週1回)にも関わらず、無数の大型トラックがそれぞれのメーカーから押し寄せ、商品を下ろしていくのである。多い日には、一日に15便ほどもトラックが押し寄せるらしく、それらが来客の導線となる店の正面をそのたびに塞ぐために、かなりの営業阻害要因となっている。在庫管理の観点からも非常に効率が悪い。
そこで、7-Eleven, Inc.では、これも日本の例に倣って、物流業務における自社の管理範囲の拡大を図っている。つまり前述の改革で密集させた店舗群に近接した倉庫を配置し、メーカーからは店舗ではなくその倉庫に配送してもらう。そして店舗から、複数メーカーの商品を混載した専用トラックで店舗まで運ぶのである。こうすることで、トータルでみた物流効率が飛躍的に改善するという。実際、日本のセブンイレブンでも、創業当初は一週間で一店舗あたり70回もあった商品配送を、2000年代には9回にまで圧縮し、物流効率を高めている。
こうしてみてくると、日本のオペレーションの模倣を基本としながらも、膨大な可能性を秘めた米国の小規模商店ビジネスに果敢にチャレンジしている同社の姿が良くわかる。日本型サービス業が米国社会でどこまで成功を収めることができるのか - 是非注目したい。
最後に、お越しいただいたDePinto氏、朝倉氏に心より感謝申し上げます。
同社とは、昨春のJapan Trekで日本のセブンイレブン本社にお伺いして以来のご縁である。同Trekでの参加者の反応が非常に良かったこと、また製造業以外にも日本が世界に誇れる産業があるということを知ってもらいたかったことなどから、日本の本社を通じて去る6月に幹部の来校・講演を依頼したところ、ほとんど二つ返事で、しかもトップお二人の来校を快諾いただくことができた。
プレゼンテーションの内容を鑑み、興味のありそうな対象に絞って宣伝したこともあり、会場は立ち見が出るほどの満員。このMBA就職氷河期に、就職に直結しない講演ながら70名を超える学生が集まったという事実には、やはりMBAは就職予備校的な役割だけではないのね、と多少ほっとした。
さて、内容であるが、この手のプレゼンテーションが往々にしてウェブサイトに書かれたような情報のまとめに過ぎないのに対し、かなり具体的な内容に踏み込んだ、興味深いものであった。以下、簡単にまとめておく。
立地・出店戦略
日本のセブンイレブン、あるいはコンビニ業界と比較した際に、同社米国事業のおかれた状況はさまざまな側面で異なるが、もっとも大きな違いの一つが、この出店状況。
日本のコンビニが全国に約4万店あり、その約3割、つまり約12,000店がセブンイレブンであるのに対し、米国のコンビニ(あるいはそれに類する商店)は14万店あり、セブンイレブンは6,200店、つまり4%に過ぎない。全体の7割は独立の所謂パパママ商店である。
こうしたパパママ商店の経営はかなり苦しいはずである、とDePinto氏は推察する。セブンイレブンの平均店舗に比べて、店舗あたりの年商で3,500万円、粗利益率で7%ほどの格差があると想定されるからである。
一方で、7-Eleven, Inc.の課題としては、6,200店が大都市を中心に展開しているといえども分散しており、日本のセブンイレブンの成功の秘訣の一つといわれる地域独占戦略から程遠い、という状況がある。
そこで同社は、郊外の孤立した店舗を売却し、一方で大都市圏で選択的にパパママ商店のチェーン加盟を促し、地域独占戦略を米国でも実行する計画らしい。これが本当に実現すれば、7-Eleven, Inc.の物流面を中心にした効率改善、人々の生活に与えるインパクトは測り知れないだろう。
店舗運営改革
日本のセブンイレブンの店舗では、「単品管理」と呼ばれる在庫・発注管理が徹底されている。強力なITシステムを武器に、各店舗の店長が個々の商品の自店在庫状況、売上状況、周辺店舗における売上動向などを見ながら、追加発注の時期・量や別の商品との入れ替えを決めていく、という仕組みで、店側の自主性・モチベーションを高め、地域ごとの細かい需要の違いを反映することができるという強みがある。7-Eleven, Inc.はこれを米国でも導入しようと努めている。そのために、必要な教育、IT投資を行うとともに、店舗の所有形態も、過半数を占めていた本部直営店舗をフランチャイズ店に転換させ、店側の考え方、姿勢を変えた。
これが徹底されれば、人気商品の欠品や不人気商品の滞留といった米国の小売店にありがちな問題が解消されるばかりでなく、自店の経営・顧客のことを店長・従業員がより真剣に考えるようになり、サービス面でも改善が期待されるという。確かにボストンに来た当初、MITの近くのセブンイレブンに立ち寄って、否定的な意味での「衝撃」を受けたのを覚えている。是非改善に期待したい。
商品戦略
顧客の求めるものをより的確に提供し、さらにメーカーに対する流通側の発言力を高めるために、プライベートブランド商品の拡充が図られている。日本では毎週100以上の新商品が投入され、1年で70%の商品が入れ替わるといい、コンビニが飲料などの消費者向け商品のライフサイクルを不必要に縮めてきたとまでいわれているが、そこまで行かなくとも、より流通側、つまり消費者に近い立場の意見を商品作りに反映させていきたいという。そのためには、メーカーに自らが掴んだ顧客ニーズを伝え、商品設計に参画していくだけでなく、自らの主導でプライベートブランド商品を作ることが合理的だと、DePinto氏は語る。
また日本のコンビニエンスストアの売上は、食品・飲料が7割を占めるが、米国のコンビニエンスストアの売上はガソリンとタバコの売上で全体の6割を占めており、喫煙人口の減少や原油価格の変動、税制の変更などの外部環境の影響を受けやすい上に、利益率が低い。7-Eleven, Inc.では徐々に食品の売上比率を高め、売上構成を日本に近いかたちにもっていくことを目指している。そのために、米国人の好むHot Food(ピザやホットドッグなど)を新たに開発し、今のところ順調に売上を伸ばしているらしい。
物流改革
最後に、物流面であるが、Big Boxといわれる大型店舗(ウォールマート、コストコなど)が強く、また全体に流通よりもメーカーが強い米国では、DSD (Direct Store Delivery) と呼ばれるメーカーからの店舗への商品直納が主要な物流形態となっている。7-Eleven, Inc.ではこれが非常な非効率を生んでいる。何しろ、個別の商品の配送頻度は少ない(せいぜい週1回)にも関わらず、無数の大型トラックがそれぞれのメーカーから押し寄せ、商品を下ろしていくのである。多い日には、一日に15便ほどもトラックが押し寄せるらしく、それらが来客の導線となる店の正面をそのたびに塞ぐために、かなりの営業阻害要因となっている。在庫管理の観点からも非常に効率が悪い。
そこで、7-Eleven, Inc.では、これも日本の例に倣って、物流業務における自社の管理範囲の拡大を図っている。つまり前述の改革で密集させた店舗群に近接した倉庫を配置し、メーカーからは店舗ではなくその倉庫に配送してもらう。そして店舗から、複数メーカーの商品を混載した専用トラックで店舗まで運ぶのである。こうすることで、トータルでみた物流効率が飛躍的に改善するという。実際、日本のセブンイレブンでも、創業当初は一週間で一店舗あたり70回もあった商品配送を、2000年代には9回にまで圧縮し、物流効率を高めている。
こうしてみてくると、日本のオペレーションの模倣を基本としながらも、膨大な可能性を秘めた米国の小規模商店ビジネスに果敢にチャレンジしている同社の姿が良くわかる。日本型サービス業が米国社会でどこまで成功を収めることができるのか - 是非注目したい。
最後に、お越しいただいたDePinto氏、朝倉氏に心より感謝申し上げます。
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経営コンサルタント
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世の中を素直に見ることが苦手な関西人。
MITスローン校でのMBA、プライベート・エクイティでのインターン、アパレル会社SloanGearの経営、そして米国での生活から、何を感じ、何を学ぶのかー。
ご意見、ご感想は↓まで
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