「 Address to Congress …オバマ議会初演説にみたもの 」
今日はオバマ大統領(この呼び方も大分と違和感がなくなってきた)の初の議会演説があった。
一般に米国の議会演説の方が、日本のそれよりも10倍以上中身があって面白いのだが、今回はその演説術で大統領の座を得たオバマ氏による議会演説であり、また8年ぶりの民主党政権への移行ということもあって、何が話されるのかにいつも以上に注目が集まっていたように思う。
およそ1時間に及ぶ演説は盛りだくさんであったが、面白いと思ったことを以下にまとめておきたい。
オバマ劇場
やはりオバマ氏は演説が似合う。小泉首相の在任時は、「小泉劇場」という言葉でその政治手法のエンターテイメント性が表現されたが、「オバマ劇場」の中心は今のところあくまで演説にあると思う(彼の権謀術数を知らないだけかもしれないが)。
とにかく明確なのは、しっかりと聴衆が定義されているということ。ほとんどの場合において、第一義的な聴衆は国民であった。もちろん現象的には、議会で米国の国会議員に向かって話をしているわけで、そういう意味では議員が聴衆なのだが、テレビを通じて流れてくる言葉は、あくまで国民へのメッセージが主だったように思う。中には、例えば先日議会を通過した景気対策予算の説明のように、共和党が明確に反対した(する)論点については、超党派的な協力を共和党議員に求める場面もあったが、そういう場面でも言い方としては、悪く言えば国民を人質に取ったような、国民経由での語りかけのように感じた。
それにしても、聴衆がしっかりと定義されているということは、演説の最も重要な要件であり、また日本の政治家が最もできていないことだというのを、まざまざと思い知らされる。日本の国会演説は、単なる「プロセス」として官僚が書いたことを読み上げ議事録に残すというタイプか、聴衆を無視して自分が言いたいことを言う独りよがりタイプがほとんどで、誰に何を言いたいのかが良くわからず、具体論を示すわけでも、これまでのオバマ氏のように国民を鼓舞するわけでもない。要するに、やる前とやった後で大して状況に変化がない。英語でやれとまでは言わないから、もうちょっとちゃんとしようよ、と思う。
成果の強調
恐らく彼が立候補したときに想像したよりも遙かに深刻で急を要する国内諸問題を前に、自らが就任してからいかに矢継ぎ早に対策を実行しリーダーシップを発揮しているか、きっちりとアピールされていた。こうした成果の強調は、古今東西を問わず政治の常套であり、この点ではしゃべり方の上手い下手を除けば、日本の首相のスピーチと大差ない。
社会インフラの強化
これまでやったことの振り返りは日本の首相のスピーチと大差なくとも、今後やることの具体的な言及は、日本のそれとは比較にならないくらいしっかりとしている。中でも、選挙期間中から協調されていた、代替エネルギー開発や医療システム改革、教育改革への投資と施策については、具体的な数字を挙げながら時間を割いて語られていた。大統領自らの得意分野、肝煎り分野で多くしゃべりたいというのが主な理由なのかもしれないが、これだけ景気が後退し、誰もが即効性のある対策を期待している中で、中長期的に持続的な成長を支えるこうした社会インフラへの投資が強調されたのは興味深い。
少なくとも、こうした分野については常にお題目は語られ、内閣府特命担当大臣は任命されるものの、実態は大臣ポストの増設と選挙向けの「賑やかし」で、ほとんどトップのリーダーシップが発揮されず何も変わらない日本とは明確に違う。
金融インフラ改善は先送り?
一方で、注目された金融インフラの改善策については、あまり言及されなかった(私が理解した限りでは)。金融は言うまでもなく今回の不況の端緒となったセクターであり、当面の流動性確保とともに、再発防止に向けた制度改革が求められているはずだが、大統領就任後のオバマ氏のこれらについての発言は、幹部の高額給与・賞与に対する批判くらいで、具体的な改革の青写真は明確に示されていないように思う。そして今回も、流動性確保のための税金投入について国民の理解を求めるようなスピーチはあったが、本質的に米国の金融セクターをどう変えようとしているのかの具体論には乏しかった。リーマンブラザーズ破綻以降経済対策分野への注目が集まる中、同分野での議論でマケイン氏をリードし支持を広げたオバマ氏だったが、やはり付け焼刃の知識だったのか…。
内向き?
もう一つ気になったのは、外交や安全保障についての話題が極めて少なかったこと。オバマ氏が(極端に)重視するアフガニスタン問題については語られていたが、その他の問題(例えば北朝鮮の核開発、中国の為替「操作」、景気浮揚のための諸外国との協調など)については語られていた記憶がない(聞き漏らしていただけだったらすみません)。米国が世界の警察として君臨することが「正しい」ことかどうかはわからないが、多国間の政治争点について米国のリーダーシップが後退し、同国が極端に内向きになることには、何となく不安を感じる。まあ短期的にみれば、国内問題に大きく焦点を絞ることは理解できるが・・・。
これまでは国民を鼓舞し、希望を抱かせることで人気を集めてきた感が強いオバマ氏だが、権力を手にしたこれからは、具体的な結果とその説明が求められてくる。失政やトラブルも出てくるだろう。それでも、この人がどう国を動かしてゆくのか見てみたい、と思える人物をリーダーに頂いているのは、実に羨ましい。ふう。
一般に米国の議会演説の方が、日本のそれよりも10倍以上中身があって面白いのだが、今回はその演説術で大統領の座を得たオバマ氏による議会演説であり、また8年ぶりの民主党政権への移行ということもあって、何が話されるのかにいつも以上に注目が集まっていたように思う。
およそ1時間に及ぶ演説は盛りだくさんであったが、面白いと思ったことを以下にまとめておきたい。
オバマ劇場
やはりオバマ氏は演説が似合う。小泉首相の在任時は、「小泉劇場」という言葉でその政治手法のエンターテイメント性が表現されたが、「オバマ劇場」の中心は今のところあくまで演説にあると思う(彼の権謀術数を知らないだけかもしれないが)。
とにかく明確なのは、しっかりと聴衆が定義されているということ。ほとんどの場合において、第一義的な聴衆は国民であった。もちろん現象的には、議会で米国の国会議員に向かって話をしているわけで、そういう意味では議員が聴衆なのだが、テレビを通じて流れてくる言葉は、あくまで国民へのメッセージが主だったように思う。中には、例えば先日議会を通過した景気対策予算の説明のように、共和党が明確に反対した(する)論点については、超党派的な協力を共和党議員に求める場面もあったが、そういう場面でも言い方としては、悪く言えば国民を人質に取ったような、国民経由での語りかけのように感じた。
それにしても、聴衆がしっかりと定義されているということは、演説の最も重要な要件であり、また日本の政治家が最もできていないことだというのを、まざまざと思い知らされる。日本の国会演説は、単なる「プロセス」として官僚が書いたことを読み上げ議事録に残すというタイプか、聴衆を無視して自分が言いたいことを言う独りよがりタイプがほとんどで、誰に何を言いたいのかが良くわからず、具体論を示すわけでも、これまでのオバマ氏のように国民を鼓舞するわけでもない。要するに、やる前とやった後で大して状況に変化がない。英語でやれとまでは言わないから、もうちょっとちゃんとしようよ、と思う。
成果の強調
恐らく彼が立候補したときに想像したよりも遙かに深刻で急を要する国内諸問題を前に、自らが就任してからいかに矢継ぎ早に対策を実行しリーダーシップを発揮しているか、きっちりとアピールされていた。こうした成果の強調は、古今東西を問わず政治の常套であり、この点ではしゃべり方の上手い下手を除けば、日本の首相のスピーチと大差ない。
社会インフラの強化
これまでやったことの振り返りは日本の首相のスピーチと大差なくとも、今後やることの具体的な言及は、日本のそれとは比較にならないくらいしっかりとしている。中でも、選挙期間中から協調されていた、代替エネルギー開発や医療システム改革、教育改革への投資と施策については、具体的な数字を挙げながら時間を割いて語られていた。大統領自らの得意分野、肝煎り分野で多くしゃべりたいというのが主な理由なのかもしれないが、これだけ景気が後退し、誰もが即効性のある対策を期待している中で、中長期的に持続的な成長を支えるこうした社会インフラへの投資が強調されたのは興味深い。
少なくとも、こうした分野については常にお題目は語られ、内閣府特命担当大臣は任命されるものの、実態は大臣ポストの増設と選挙向けの「賑やかし」で、ほとんどトップのリーダーシップが発揮されず何も変わらない日本とは明確に違う。
金融インフラ改善は先送り?
一方で、注目された金融インフラの改善策については、あまり言及されなかった(私が理解した限りでは)。金融は言うまでもなく今回の不況の端緒となったセクターであり、当面の流動性確保とともに、再発防止に向けた制度改革が求められているはずだが、大統領就任後のオバマ氏のこれらについての発言は、幹部の高額給与・賞与に対する批判くらいで、具体的な改革の青写真は明確に示されていないように思う。そして今回も、流動性確保のための税金投入について国民の理解を求めるようなスピーチはあったが、本質的に米国の金融セクターをどう変えようとしているのかの具体論には乏しかった。リーマンブラザーズ破綻以降経済対策分野への注目が集まる中、同分野での議論でマケイン氏をリードし支持を広げたオバマ氏だったが、やはり付け焼刃の知識だったのか…。
内向き?
もう一つ気になったのは、外交や安全保障についての話題が極めて少なかったこと。オバマ氏が(極端に)重視するアフガニスタン問題については語られていたが、その他の問題(例えば北朝鮮の核開発、中国の為替「操作」、景気浮揚のための諸外国との協調など)については語られていた記憶がない(聞き漏らしていただけだったらすみません)。米国が世界の警察として君臨することが「正しい」ことかどうかはわからないが、多国間の政治争点について米国のリーダーシップが後退し、同国が極端に内向きになることには、何となく不安を感じる。まあ短期的にみれば、国内問題に大きく焦点を絞ることは理解できるが・・・。
これまでは国民を鼓舞し、希望を抱かせることで人気を集めてきた感が強いオバマ氏だが、権力を手にしたこれからは、具体的な結果とその説明が求められてくる。失政やトラブルも出てくるだろう。それでも、この人がどう国を動かしてゆくのか見てみたい、と思える人物をリーダーに頂いているのは、実に羨ましい。ふう。
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経営コンサルタント
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世の中を素直に見ることが苦手な関西人。
MITスローン校でのMBA、プライベート・エクイティでのインターン、アパレル会社SloanGearの経営、そして米国での生活から、何を感じ、何を学ぶのかー。
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