「 Leadership in US vs in Japan ...大学教育の現場からの視点 」
ボストン日本人研究者交流会の主催で、東京大学の柳沢幸雄教授をお招きして、「リーダーの条件と育成〜ボストンでの経験から考える〜」と題した講演が行われた。環境分野の専門家としてハーバード大学と東京大学という日米の最高教育機関で教授を務められたご経験から、米国と日本のリーダーシップのあり方の違いについての考察と、そこに立脚した現在の日本の閉塞的状況への視座を提供された興味深い内容であった。以下、教授が指摘された内容を簡単に振り返っておきたい。
以上のような考察から、教授は「前例がないからこそ、自らの判断と責任でやってみよう。それがエリートの責務」という言葉で、講演を締めくくられた。
ありがたい精神の刺激をいただいた。
- 米国のリーダーはアイデアの提示が役割であり、意思決定の主体。日本のリーダーはアイデアの調整が役割であり、一致団結・前例主義が行動規範
- 米国では、大学教授が研究提案を書いて自分で研究資金を獲得し、それをもとにスタッフを雇って研究室を運営するように、リーダーが自分のアイデアをもとに集団を牽引しなければならない。したがって意思決定やその結果に対して責任をもつのは明らかにリーダーであり、スタッフは執行にのみ責任をもつ
- 20世紀、ハーバードの総長は5人(つまり平均任期20年)であったのに対し、東大の総長は20人(平均任期5年)もいたという。東大の総長はかつては6年、今では4年という任期が決まっていて、法学部など「基幹学部」の持ち回りになっているので、自動的に短い任期となるのだろうが、長期的視点で改革に取り組まなければならないはずの高等教育機関において、リーダーが名誉職的な位置づけになっていることがわかる
- 日本の一致団結・前例主義の典型例として紹介されたのが、日露戦争から太平洋戦争に至る歴史。日露戦争勝利という「前例」が、日本軍をして、その戦争に勝利した1905年に制式採用された三八式歩兵銃(サンパチ)を太平洋戦争に至るまで使わしめたという。ゼロ戦を作る技術がありながら、40年前の歩兵銃を後生大事に使い続けるというのは、バブルがはじけ人口が減少をはじめた今も戦後~高度経済成長に至る仕組みを踏襲し続ける日本の姿と重なる
- 日本でも松下幸之助の「やってみなはれ」に代表されるように、前例を重んじない起業家的な雰囲気がかつてはあったが、高度経済成長で「勝ちパターン」ができてしまうと、それもなかなかみられなくなってきた
- 米国は事後主義、日本は事前主義
- 日本は、稟議システムが象徴するように、事前に関係者の了解をとって根回しをすることが最重要であり、その際の説得のために前例が重要視される。稟議でハンコを一個とばすと大変なことになるし、リーダー自身も自分の名前で意思決定することを怖がる。会議の議事録についても、発言から名前を消してくれ、というリクエストがしばしば出る。逆に事前にこうしたプロセスさえ経ておけば、結果に対する責任をリーダー個人に追及されることはあまりない
- 一方で米国では、前例のないことを意思決定し、それに向かって集団をひっぱるのがリーダーであるので、あくまで結果が重要。いいかえれば、米国的・民主的リーダーシップとは、明確に機能する罷免規定のもとでの「独裁」
- 米国のスタッフは自前、日本のスタッフは既存
- 前述の大学研究室の例や、ホワイトハウスのスタッフの例からもわかるように、米国ではリーダーが自分の決定した施策を実行するために最適なスタッフを自分で選ぶ。結果に対して自分が責任を負わなければならないわけだから、自分が安心して執行を任せられる連中をつれてくるのである。従って、リーダーが変われば、多くの場合スタッフも変わる
- 日本のスタッフ組織は、誰がリーダーであろうが踏襲され、往々にしてリーダーよりも経験が長い。官僚組織がその代表例である。従って誰がリーダーになってもとりあえず動くし、宰相が1年で政権を投げ出すことが続いても、とりあえず国はまわる
- 米国のスタッフの忠誠心はリーダー(個人)への忠誠心、日本は集団への忠誠心
- 確かに、日本では「愛社精神」という言葉はあるが、社長のために頑張ろう、というのは、オーナー会社を除いてあまりないように思う
- 米国は公開の市場メカニズムによる自動的評価、日本は「公平な第三者」による評価
- 従って米国では、リーダーの評価が市場メカニズムによって自動的に決まる。結果の出なかったリーダーは自動的に新陳代謝される。これを機能させるために、情報公開も徹底している。大学の教授や授業に対する学生の評価は、全世界の誰もが見られるようになっている(例えばスローンの例はこちら)
- 翻って、日本でよく聴く「公平な第三者」による評価とは、まったく意味の分からない言葉。結果に責任を負うつもりがあるのかないのか。評価に必要な社会的費用、間接部門が考慮されていない
以上のような考察から、教授は「前例がないからこそ、自らの判断と責任でやってみよう。それがエリートの責務」という言葉で、講演を締めくくられた。
ありがたい精神の刺激をいただいた。
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