Beer Gameというのをご存知だろうか。
一言で言えば、「船頭多くして在庫と受注残が溜まる」ということか。
System Dynamicsを学習する導入としてMITスローン校で1960年代に開発されたロールプレイングゲームである。オリエンテーション最終日の今日は、ホテルのボールルームを借り切って、全員でこのゲームを体験した。
ゲームの説明は、神戸大学大学院経営学研究室編『経営学大辞典 第2版』中央経済社、1999.11に簡潔にまとまっているので、以下借用する(カッコ内のみ筆者加筆)
「・・・ゲーム盤には「工場」・「一次卸」・「二次卸」・「小売店」の役割があり、参加者はチームとなって(通常各プロセス一人で計4名。今回は各プロセスを2名ずつのサブチームが担当し、計8名)各ビールゲーム盤に向かい勝敗を競う(この日は参加者のやる気を喚起するため、全員から1ドルずつ参加費として徴収し、優勝チームの賞金とした)。しかし、このゲームの本当の目的は勝敗にはない。ゲームの参加者が、一つの複雑なシステムの意思決定を分担し相互に圧力を感じながら自らの意思決定を遂行するロールプレイングを通して、人間の合理的な意思決定がフィードバック情報の誤認のためにパラドックスを引き起こす過程を体感する。こうして、「システムの内的構造が行動を生む」というSD(System Dynamics)の大原則と共にシステム思考とはどういうものかを体験的に学習し、SDへの入門的な役割を果たす」
補足すると、各プロセスでは、下流の需要を予測しながら、上流工程に対して発注をかける。最下流の小売店に対する需要は顧客からの需要で、これは各チーム同じ内容がカードになって与えられている。各工程の在庫および受注残にはコストがかかり、このコストをプロセス全体として最小化するのが目的である。但し、発注が次工程に届くまで(最上流の工場であれば生産指示をかけてから完成するまで)に2ターンの時差があるため先読みの必要があり、これが事態を複雑にする。妄想や相互不信で各工程が勝手な予測をたて、信じられないくらいの在庫と受注残が発生するのである。実際に、優勝チームと最下位のチームとでは、かかったコストに5倍ほどの開きがあった(ちなみに我がチームの成績はほぼ平均並み)。
ゲーム後の解説によると、実際の工場の生産計画担当者などが集まってこのゲームをやった際も、あるいは一流経営者が集まってこのゲームをやってみた際も、素人がやる場合と大差ない(あるいはそれを遙かに上回る)ほどの点数(コスト)になったらしい。それどころか、最初から末端の顧客からの需要が知らされていたとしても、理論上の最低コストにはなかなか近づかないらしい。これが上記の経営学大辞典のいう「人間の合理的な意思決定がフィードバック情報の誤認のためにパラドックスを引き起こす過程」である。
多少冗長な気はしたが(ゲーム後の解説が1時間以上かかった)、授業のイントロとしては非常に面白かった。System DynamicsはMITがユニークに強い分野でもあり、是非受講してみたい。
ちなみに、Beer Gameの醍醐味はボード上でわいわいやることで味わえると思われるが、オンラインでも体験することができるソフトをMITで提供している。詳しくはこちら
MITスローン校でのMBA、プライベート・エクイティでのインターン、アパレル会社SloanGearの経営、そして米国での生活から、何を感じ、何を学ぶのかー。
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