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こうした各社・業界の40代の中堅管理職と30代の「下士官」が、家族同伴・ジーパン着用で夕方6時からビールを飲む、というのは、なかなか希少な出来事ではないかと思う。
この日開催された、日本人MBA Class of 2008による日本人MBA Class of 2009、日本人Fellows 2008への合同歓迎会は、そんな意味で面白いイベントであった。
スローンの校舎に隣接したアパートの最上階、Chales川とボストンのダウンタウンが一望できるゲストラウンジで、会は催された。
皆、大手町あたりの交差点ででも見かければ、スーツを着て気難しい顔をしていそうな連中が、年齢の上下ともに互いに敬語で、友好的ながらも当たり障りのない会話をする。
業界は狭い。あまり迂闊な発言をすると、知られてはいけないことがバレてしまったり、思いもしないかたちで自分に舞い戻ってきたりしそうである。いわんや、中には同じ会社出身の人々もいて(しかもボストン入りするまで互いに知らなかったりする)、会社の上下関係とMITにおける先輩・後輩が逆転していたりするので、日本人の秩序感的にはかなりカオスである。結果として、何とも言えない微妙なパワーバランス、緊張感が、ちょっとした安心感とともに、25mプールほどの広さのラウンジを覆う。
こんなにも多様で、日本経済の基軸になるような業界・会社をカバーしたネットワークはそうそうないはずで、貴重な財産であることは間違いないのだが、帰国後もそれが意味あるかたちで機能するためには、何かしらのブレークスルーが必要であることもまた、明白であるように感じられた。
そのブレークスルーは起こりうるのだろうか。
自分にはそれを主体的に起こす力はないようで、恥ずかしいのだが、心の片隅にいつもひっかかっていそうである。
Communityへの貢献
というのは、米国社会でよく耳にする言葉である。MBAのapplication essayなどでもよく取り上げられる課題であるし、企業の社会活動でも頻繁に言及される。中学生時代に短期留学した英国の地方都市でも強調されていたことから類推するに、単に移民社会特有の必要性から生じた道徳ではなく、欧米市民社会に広く根付いた概念なのかもしれない。この、なかなか日本語化しにくい概念に触れられるのも、MBA留学、特にOn-Campusで生活することから得られる機会である。この日Westgateで催されたイベントも、その良い例であった。
New Resident Munch & Mingleと称して、Westgate高層棟の地下ラウンジでちょっとしたパーティが開かれた。この学期から入居した住人とCommunity Associationのメンバーが集まって、互いを紹介し、知り合いになる切欠にするためのイベントである。軽食とソフトドリンクが用意され、和やかな雰囲気で皆語らっていた。延べ30名ほどがいただろうか、もちろんこの場で全部の顔と名前を覚えることは不可能だったが、アパートの一室を借りるという物理的な経済行為だけでなく、それがCommunityに加入するという社会行為を含んでいることが、感覚的に理解できた。それも、日本の集合住宅の掃除当番のような義務先行型のものではなくて、相互に貢献しようという気持ちがあるという性善説的な前提に立ちつつも、原則自由参加であることが少し新鮮であった(実際に、新入居者でイベントに来ていない家族も複数いたらしい)。
ご近所付き合い、というのはあまり経験がなく、得意な方ではないが、せっかくの機会なので、今後予定があえば参加していきたい。
いよいよ秋学期が始まった。
MITスローンでは一年が二学期で構成されており、つまり2年の在学期間中4つの学期(春、秋それぞれ2回ずつ)を過ごすことになるが、その最初の秋学期だけは、基本的に全員が同じ基礎科目を履修する「コア課程」と呼ばれている(それ以外の3つの学期で履修する課程は完全に学生の自由選択)。
履修が義務付けられているのは以下の6科目である(金融とマーケティングは選択制)
・ミクロ経済学
・統計
・会計
・金融(またはマーケティング)
・組織プロセス
・コミュニケーション
最初の4科目が2時限/週、他の2科目は1時限/週で、あわせて10時限/週である。
コマ数だけみるとそれほどタフなようには感じられないのだが、「先輩」たちは外国人も日本人も口をそろえて、「Core semesterはしんどい」という。
初日は統計と金融の授業があったが、シラバスや成績採点方針の説明などが中心で、その「しんどさ」の一端を垣間見ることは出来なかった。
まあ本当にしんどければすぐにわかることだろうし、しんどくなければそれはそれでラッキーなので、黙って状況を見守ることにしよう。
オリエンテーションと秋学期開始の間は、9月4日のLabor Dayも含めて4連休である。これを利用して家族でメイン州まで一泊二日の小旅行に出かけた。米国入りしてから初の小旅行であり、買ったばかりの自動車にまだ慣れないチャイルドシートをつけて出かけてみたかったこと、また思い立ったのが1週間ほど前でたいそうな準備はできなかったことから、New England内で気軽に行ける場所を目的地に選んだ。
初日はI95を北上し、ジョージ・H・W・ブッシュのサマーハウスのあるKennebunkportで海を見てPortlandに宿泊、二日目は再びI95を南下し、途中灯台が有名な州南部のSohier Parkと、New Hampshireとの州境近くにあるKittery Outletsに立ち寄って帰宅、という極めてシンプルな旅程。以下、ハイライト。
■海岸風景(Kennebunkport, Sohier Park)
まさに風光明媚。
大西洋の青い海に沿って、白壁の小奇麗な邸宅とその庭の芝生が太陽に照らされている。その向こうの森と青空がスケールの大きい借景となって、それらを盛り立てる。
特に二日目に立ち寄ったSohier ParkのNubble Lighthouse(ノーブル灯台)は、世界的に有名な写真スポットといわれるだけあって、レゴブロックで出来たような灯台と燈台守の家が瀟洒で可憐。多くの人がシャッターを向けたり、ぼんやり眺めたりして楽しんでいた。
海沿いの別荘地は、ボートに揺られたり、屋外で読書をしたり、バーベキューをしたり、そんなのんびりした過ごし方をするには最高の環境に思えた。ブッシュ元大統領を初め、多くの著名人・お金持ちがリタイアした後にこのあたりに住むのも理解できる。試しに街の不動産屋を覗いてみたら、中古の一軒家で1億円前後からだった。
■Portland
州最大の都市(州都ではない)。といっても産業的には漁業と多少の商業があるだけで、たいした経済規模ではない。街の中心部のほんの数ブロックだけであるが、歴史的な町並みが保存されている。といっても、これもボストンやケンブリッジではどこにでもありそうな街角で、逆に米国におけるボストンやケンブリッジの歴史的価値を確認させられた。
ロブスターをはじめとする魚介類は絶品。ホテルで進められたロブスターの有名店(艀に立てられた小屋のようなところだが)は長蛇の列であったため、勘を頼りに港近くの店に入ったが、十分満足できる味であった。これだけで、来た甲斐があった。
■Kittery Outlets
米国のアウトレットは初体験だったが、まったく想像していたのとは別の世界。
広いなどというものではない。
店舗同士は屋内で連結されておらず、店から店へは炎天下を歩かねばならない。そうした店舗が3~10件で一つのブロックを構成し、そうしたブロックが10前後ある。ブロックとブロックの間は100m以上離れており、車での移動が基本。混雑しているので毎回駐車場を探すのに手間取る。まったくもって広さが価値に繋がっておらず、嫌がらせに限りなく近い恐るべき非効率である。ウィンドウショッピングなどとんでもない。事前に作戦を練って目的の店にピンポイントで行くかたちでないと、干上がってしまう。
もう当分行きたくない。
Beer Gameというのをご存知だろうか。
一言で言えば、「船頭多くして在庫と受注残が溜まる」ということか。
System Dynamicsを学習する導入としてMITスローン校で1960年代に開発されたロールプレイングゲームである。オリエンテーション最終日の今日は、ホテルのボールルームを借り切って、全員でこのゲームを体験した。
ゲームの説明は、神戸大学大学院経営学研究室編『経営学大辞典 第2版』中央経済社、1999.11に簡潔にまとまっているので、以下借用する(カッコ内のみ筆者加筆)
「・・・ゲーム盤には「工場」・「一次卸」・「二次卸」・「小売店」の役割があり、参加者はチームとなって(通常各プロセス一人で計4名。今回は各プロセスを2名ずつのサブチームが担当し、計8名)各ビールゲーム盤に向かい勝敗を競う(この日は参加者のやる気を喚起するため、全員から1ドルずつ参加費として徴収し、優勝チームの賞金とした)。しかし、このゲームの本当の目的は勝敗にはない。ゲームの参加者が、一つの複雑なシステムの意思決定を分担し相互に圧力を感じながら自らの意思決定を遂行するロールプレイングを通して、人間の合理的な意思決定がフィードバック情報の誤認のためにパラドックスを引き起こす過程を体感する。こうして、「システムの内的構造が行動を生む」というSD(System Dynamics)の大原則と共にシステム思考とはどういうものかを体験的に学習し、SDへの入門的な役割を果たす」
補足すると、各プロセスでは、下流の需要を予測しながら、上流工程に対して発注をかける。最下流の小売店に対する需要は顧客からの需要で、これは各チーム同じ内容がカードになって与えられている。各工程の在庫および受注残にはコストがかかり、このコストをプロセス全体として最小化するのが目的である。但し、発注が次工程に届くまで(最上流の工場であれば生産指示をかけてから完成するまで)に2ターンの時差があるため先読みの必要があり、これが事態を複雑にする。妄想や相互不信で各工程が勝手な予測をたて、信じられないくらいの在庫と受注残が発生するのである。実際に、優勝チームと最下位のチームとでは、かかったコストに5倍ほどの開きがあった(ちなみに我がチームの成績はほぼ平均並み)。
ゲーム後の解説によると、実際の工場の生産計画担当者などが集まってこのゲームをやった際も、あるいは一流経営者が集まってこのゲームをやってみた際も、素人がやる場合と大差ない(あるいはそれを遙かに上回る)ほどの点数(コスト)になったらしい。それどころか、最初から末端の顧客からの需要が知らされていたとしても、理論上の最低コストにはなかなか近づかないらしい。これが上記の経営学大辞典のいう「人間の合理的な意思決定がフィードバック情報の誤認のためにパラドックスを引き起こす過程」である。
多少冗長な気はしたが(ゲーム後の解説が1時間以上かかった)、授業のイントロとしては非常に面白かった。System DynamicsはMITがユニークに強い分野でもあり、是非受講してみたい。
ちなみに、Beer Gameの醍醐味はボード上でわいわいやることで味わえると思われるが、オンラインでも体験することができるソフトをMITで提供している。詳しくはこちら
MITスローン校でのMBA、プライベート・エクイティでのインターン、アパレル会社SloanGearの経営、そして米国での生活から、何を感じ、何を学ぶのかー。
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