金融(Finance)は、MBAでしっかり学びたかった領域の一つであり、この学期が始まってからも相対的に時間を投資して勉強してきたつもりの科目である。
今学期(= Core Semester)で学ぶ金融は、正式にはFinance Theory Iという名称で、スローンで教える金融関係諸講座の基礎の基礎にあたる。これを履修し、さらにFinance Theory IIという授業も修了した者だけが、その先の更に専門的・個別的な金融概念の学習に進むことができる。よって授業の前半は、本当に基礎的な内容で、言っていることはわかるが現実的な応用があまり見えてこず、正直あまり面白くなかった。
ところが、債券から株の話へ進み、さらに学期の後半それらを複数組み合わせたポートフォリオやオプションなどの議論に入ってくると、難解度は増すが、現実的な応用や、更に深い議論への発展性がみえてきて、随分と面白くなってきた。
これに加えて、更に最近気づかされるのが、このコア学期の一週間の授業編成が良く考えられているな、ということである。
金融、統計、会計、ミクロ経済、という4つの教科は毎週二回授業があり、月曜日から木曜日までの4日間は毎日これらのうちの2教科にお目にかかることになるのだが、
・金融と統計
・会計とミクロ経済
の授業が同じ日にくるように、スケジュールが組まれている。
これが、互いに関連性のある4つの教科の中でも、より関連性の深いものを同じ日に置いているのだということに、恥ずかしながら最近ようやく気づいてきた。
例えば今日は、朝から統計の授業があり、午後に金融の授業がある。
統計では、あるデータ群の分散・期待値と別のデータ群の分散・期待値からこれらを合わせた全体の分散・期待値を求めたり、サンプルのデータから「本当の」分散や期待値を推計したりする。
そしてこれは、金融で、例えばポートフォリオのリスクとリターンを考えるのに不可欠な理解である。
会計とミクロ経済は逆に、売上や利益といった経済概念に対する捉え方が違うために、それぞれを平行して理解させ、複眼的な視点を持たせようとしているようである。
いずれにせよ、HBSのようなCase形式の授業ではなく、講義形式を多く採用しているスローンであるからこそ、こうした構造的な授業編成を組んで、それを活かした教え方ができるのだろうし、そうすべきであろう。そして自分にはそれがわかりやすく、ありがたいと思っている。
以前にも触れたTeam Projectも、終盤に入っている。
コミュニケーションの授業での提案内容のプレゼンは1週間後の12月4日(火)、組織プロセスの教授へのレポートの提出はその2日後の6日(木)である。
これまでに、「クライアント」であるソフトウェアベンチャー会社のマーケティング資料を読み、14件の従業員インタビューをこなし、それらを通じて得られた情報から、会社の組織課題の現状分析と解決策の提案をほぼ終えていた。後は、これをどうまとめあげるか、という段階である。
解決策の提案については、何をどこまで言うかがチーム内で合意に至っていなかったが、それ以外のプレゼン内容は大筋で合意できていた(と少なくとも私は思っていた)ので、今日までに解決策の提案のパートを除いて一通りプレゼンを完成させ、コミュニケーションの授業のTA(=Teaching Assistant)に見てもらって、残り一週間で完成度を高めていこう、という段取りになっていた。
既述のとおり、スローンに来る前の仕事でコンサルティングをやっていた経験を買われ、本プロジェクトではリーダーを任されていたので、プレゼンを纏め上げる過程では文字通りリーダーシップをとって、メンバーからのインプットを統合、修正して、一つのカタチに仕上げつつあった。
しかしながら、今日のそのTAとのミーティングでは、様々な問題が噴出した。
1.見せ方 ...簡潔さと深さのトレードオフ
まずはプレゼンの見せ方である。
コミュニケーションの授業では、いくつかのポイントから「良いプレゼン」を定義している。
そこで主張されていることは、
- なるべく結論から入ること
- とにかく資料の文字数は減らすこと
- 色使いを減らすこと
などである。それらは、原則論としては理解できる。問題は、この特に2点目と3点目について、プレゼンの内容を犠牲にしてでもこれらを突き詰めることが、コミュニケーションの授業の得点に繋がる、というゲームのルールであり、これに対する学生の姿勢である。
中でも、文字数を減らした方が良い(=一つ一つの文字を大きくした方が良い)、というのは原則論としてそうだが、どの程度が適切な度合いか、という点についての見解はさまざまである。そして、コミュニケーションの授業で示される「お手本」は、自分が所属するコンサルティング会社で教育された(そして実際のプロジェクトの経験から適切と証明された)適正水準よりも遙かに文字数が少ない。これでは、私の理解では、資料は非常に簡潔になる反面、必要不可欠な情報の深さが確保されない。
一例を挙げると、プレゼンの最初に全体要旨を一枚にまとめて示そうとした際、それは要旨であるから文ないし節にならざるをえず、文字数が増える。しかしコミュニケーションの授業での教えを貫徹しようとすると、これは単語に圧縮されてしまう。例えば
"Lack of resource for implementation"
というところを、
"Resource"
とだけ書け、ということになる。
これでは、Resource(ここでは人的資源)が足りないのか多いのか、足りないとしたらどこで足りないのかがまったく伝わらない。人的資源に何らかの問題があるということが伝わればよい、という見方もあるが、それは世の中のほぼすべての会社に言えることで、面白くも何ともない。
2.分析の視点・焦点
組織プロセスの授業では、MITのパテントになっている"The Three Lenses"という組織考察の切り口を使って、プロジェクトを進めることを求めている。逆に言えば、この切り口で扱える事象しか、プロジェクトの分析対象と出来ない。理屈上、この切り口は組織課題を網羅的に捉えているはずなので、その会社において組織課題が重要だということに異論がなければ、この切り口で分析を進め、その中でも特にどこが対策を要するか、ということを語ることは、筋が通っている。
ところが、コミュニケーションのクラスでは、
「組織プロセスで教えられている視点に拘らず、クライアントにとって意味があると思われる内容を述べなさい」
という。
これは、組織プロセスで教えている分析の視点の自己否定に近い。
しかしながら、やはりここでも、論理的に何が正しいかは別にして、とにかくコミュニケーションのクラスでの得点を狙いにいきたいチームメートからは、言い回しだけでいいから、組織プロセスで教えている表現を使わないようにしよう、という提案が出てくる。
3.進め方
これは最初から、問題が出るかな、と思っていた点ではあるが、チームの共同作業の進め方で、大きなフラストレーションを(お互いに)感じる。
効率的に進めるため、一連のインタビューの最初の3回に自分が出向き、そこから得られた情報から全体の提案の仮説をA4一枚くらいでまとめてしまい、チームがこれを強化・修正していく方法をとった。
終盤まで、これは機能していた。一度チームで合意したことにしたがって、皆が議論を積み上げていくので、話が瞑想せず、分析が深まった。
ところが終盤、特にプレゼンをどう見せるか、あるいはどこまで直接的な言い回しにするか、という多分に主観的な議論になってくると、複数のチームメートが朝令暮改でいうことを変え、しかもそのたびに強行に主張(英語で…)するので、決まるものも決まらなくなってきた。何となく、彼らは自分が何を正しいと思うかではなく、どうすると得点が高くなりそうか、というのを周囲の情報から推し量ろうとするので、その周囲の情報が増えると、言うことが変わるようであった。
以上のようなことから、今日のミーティングはかなりのフラストレーションが募るものとなった。
とはいえ、議論は前に進めねばならず、また個人的事情としてこのプレゼンの翌日が次女の出産予定日のためプレゼンに出席できない可能性もあり、自論に拘っていても仕方ないので、得点稼ぎモードに同意してプレゼンの内容を変えたが、夜中に行ったこの作業ほど、今までプレゼンを作っていて虚しさを覚えたことはなかった。
一般に第二子は予定よりも早く生まれることが多いというが、一人目も予定日より若干早かったこともあり、妻は今週生まれるという確信をもっている。特に、明後日の水曜日が満月とのことで、その日の可能性が最も高いらしい。
となると、家族三人で食事、という機会も、今後なかなかないことに気づく。
更に、出産直前に焼肉を食べると、安産になるらしい、という説も聞こえてきた。
というわけで、家族三人で急遽焼肉を食べに行く。
行った先は自宅から車で5分くらいのところにある、Koreanaというレストラン。ケンブリッジ市内では人気の、小洒落た焼肉屋である。米国の韓国料理店の例に漏れず、寿司も食える。
長女は炎上する肉をみて恐れ戦いていたが、妻は非常に満足してくれたようだ。ニンニクもモリモリ食べていた。
焼肉パワーで、しっかり産んでください(合掌)。
米国の伝統にならい、我が家でも同じWestgateの日本人家族Oさん一家と共同で、七面鳥を丸焼きにした(一応ことわっておくが、とても一家でやっつけられる量ではない)。
近所にあるちょっと高級なスーパーで丸焼き用の七面鳥を買ってきて(30ドルくらいだったか)、Stuffingと呼ばれる詰め物をして、バターを塗ってオーブンでひたすら焼く。
← Before
何度も何度も温度計を突き刺しながら焼くこと数時間で見事に出来上がり。なかなか内部の温度がレシピに定める水準に達しないのをみて、「もういいんじゃない?」と私が何度も横槍を入れるのを制し、粘りきった奥方たちの勝利である。
← After
縦に真っ二つにして、二家族で分ける。
肉は余分な脂肪分が抜けつつウマ味が残されていて、食感も良い。
流れ出た肉汁も詰め物に染み込み、ウマ味を逃していない。
油も表面にバターを塗っているだけなので、しつこくない。
もっとも、量は多い。十分堪能したが、それでも全体の1/6程度を食べただけで、真っ二つになった状態から半分も食べられていない。
それでも、明日も食べたいと思わせる味であった。
明日までにして欲しいが。
チームメートのMMさんが、娘のJuliaの誕生日パーティに我々家族を招いてくれた。
MMさんは我が家の次女の出産が間近に迫っていることを気にかけてくれていて、いざというときに長女を預かることも申し出てくれていた。今回も、長女を彼女の家族に慣れさせる良い機会と考えてくれたようだ。
Intelからの社費留学である彼女の自宅は、スローンの校舎あるいは地下鉄Kendall駅からすぐ近くの高級マンションにある。Red Soxの岡島投手も住んでいる高層マンションの12階に、2LDKを借りて住んでいる。午後のお茶の時間に、我々を含めた4家族をそこに招いてくれた。カップケーキと飲み物のみの簡単なパーティだが、多国籍子供軍団は思い思いにおもちゃで遊んでいて、楽しそうであった。最近人前に出ると金縛りにあったように動かなく・しゃべらなくなってしまう我が娘も、時が経つにつれ徐々に場に馴染んで、恐る恐る動物の人形で遊んだりしていた。
以前に住んでいたコロラドの自宅から運んだという家具は、簡素だが重厚感のある木製のもので統一され、大きめのソファーとともに居心地の良い部屋を演出している。窓からはCharles川やその向こうのボストンの街が見渡せる。素晴らしい部屋である。
ただ、一ヶ月の家賃は3,000ドルほどらしいその部屋よりも格好良いのはMMさん夫妻自体である。
妻のMMさんはスウェーデンの出身の32歳、米国の大学を出て技術者としてIntelに入社し、今年からスローンに留学している。ただのMBAではなく、スローンとSchool of Engineeringとの横断プログラムであるLFM(Leader for Manufacturing)を学んでいて、我々以上にタフな勉強量をこなしている(そもそも授業のコマ数が多い)。こう書くと、勉強ばかりしている技術屋さん、という感じだが、実は高校から始めたというゴルフでは数々の受賞歴を持ち、レッスンプロの資格までもっている。大学時代はゴルフで飯を食っていくことを真面目に考えたほどらしい。無理をしない範囲で何でも卒なくこなすので、育児をしながらハードな勉学に耐えている、というような悲壮さはまったくない。
米国人の夫(彼もまたイニシャルMMで区別できないので、単に夫と書く)は、アウトドアが似合う爽やかな男性。米国公認会計士(CPA)としてコロラドで活躍していたが、MITで勉強したいという妻を支えようと事務所を辞め、今は主夫として娘の面倒をみたり家事をこなしたりしている。ただ、いつ会っても、言葉だけでなく本当にその生活を楽しんでいるようで、家庭疲れのようなものは微塵も感じられない。妻の同級生とも友人として広く付き合っているようで、買い物を頼まれてやったりしているらしい。
日本でも仲の良い夫婦は沢山みるし、我が家も仲の良い方だと思うが、彼らのように夫婦そろって高学歴で、それをまったくひけらかすことなく、カネにも執着せず、お互いに尊敬し合い、自分たちの生活を楽しんでいる人というのは、なかなか現実世界でみたことも聞いたこともない(ドラマとかにはいそうだが)。とにかく、格好良い。まあ、真似はできないし、ポジションが遠すぎて真似をしようという気にもならないが、心意気だけでも見習いたいものである。
MITスローン校でのMBA、プライベート・エクイティでのインターン、アパレル会社SloanGearの経営、そして米国での生活から、何を感じ、何を学ぶのかー。
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