MITのEntrepreneurs Competition、通称"100K"のレセプションが、このところ続いている。
先日はコンサルティングファームBCGの主催で、さすがにあまり興味をひかれなかったが、今回はBrown Rudnickというベンチャー支援も手がける法律事務所が主催で、実際に起業し成功をおさめたMIT出身の技術者による講演もあるというので、出かけてみた。
場所はボストンのダウンタウンの南側、South Stationの正面に位置する高層ビルの18階。モダンなオフィスからは、ボストンの港が一望できる。当社のボストンオフィスもそうだが、米国人は良い所で仕事をしているものだ。
演台に立ったのは、Jay Stein博士。MITで博士号を取得し、現在はHologicという会社の創業者兼名誉会長である。
1942年の生まれという博士の人生は、波乱万丈である。
高校生のとき、ガガーリンを乗せたロシアの宇宙船スプートニクが初の大気圏外有人飛行に成功、影響を受けた博士は天文学を志す。
大学時代は、天文学の中でも宇宙空間を無数に飛び交うX線の研究に没頭、MITにおいて博士号を取得する。しかしながら天文学分野におけるX線研究の実験で失敗すると、学問を諦め実業界に方向転換、企業に就職。そこでX線を活用した空港の手荷物チェックシステムを発明する。最初は市場が未成熟(当時は搭乗前の手荷物検査の義務はなし)で思うように売れなかったが、JFKの暗殺やキューバ行き航空機のハイジャックなどによりX線手荷物検査が全員に求められるようになると市場は急拡大、博士の発明も大きな利益を会社にもたらした。
彼の発明は、常にX線技術と共にある。次に同社で彼が発明したのは、第四世代CTスキャンと呼ばれるもので、やはりX線を活用した装置である。
その後「上司と馬があわず」80年代に退社、44歳で起業する。
二つの会社経営を経て、三社目となったHologic社の創業で、大きな成功を収める。
まずは80年代後半、骨粗しょう症を検査できるX線装置を発明。しばらくは収益に繋がらなかったが、2000年頃にFDAが骨粗しょう症の治療薬を承認すると、検査装置もそれに伴って需要拡大し、大きな収益と株価上昇を生み出す。
一方で、1988年に発明した、空港で預ける大型荷物をX線で検査し、火薬成分を検知できる機器の場合は、なかなか売れないので2000年に売却。しかしその直後に9-11が発生し、預け入れる荷物もX線検査が義務付けられると機械は飛ぶように売れ、博士としては非常にもったいないことをした。
こうしてみてくると、博士の発明は、その後に当局の規制等が変わると売上が爆発、というパターンである。
逆に言えば、規制がなければ大した収益を上げていなかった、ということになる。
これを踏まえて博士の曰く、"Great brilliance and hard work are no match with blind luck"。つまり、降って湧いた幸運がなければ、才能も努力も報われない、ということか。ただ、一方で、その「幸運」が舞い降りたときに、それを掴み取る準備ができていないと、他人に先をこされてしまう。そのため、ベンチャーが常に自らの世界観、独創性を信じて、何かを生み出し、根気良く事業機会を待たなければならない。
ともすればアイデア勝負で、結果を焦りがちなベンチャー創業希望者への警鐘であろう。
笑顔を絶やさない66歳の紳士は、ユーモアと説得力を兼ね備えた、好人物であった。
なかなかこういう人物には、日本ではお目にかかれない。残念ながら。
MITスローン校でのMBA、プライベート・エクイティでのインターン、アパレル会社SloanGearの経営、そして米国での生活から、何を感じ、何を学ぶのかー。
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